畑での野菜作りをはじめ、日々のごはんや季節の保存食を手づくりする、布作家の早川ユミさん。80年代からコロナの前まで続けた家族旅では、タイやインドなどアジアの国々ヨーロッパなどを巡ってきました。
滞在中は家を借り、鍋やコンロも持参して「暮らしながらの旅」をすることもあったそう。この春に上梓した『畑ごはんーちいさな種とつながる台所ー』(文化出版局)には、旅先の味を再現した料理や、収穫した野菜や果物を使ったレシピが掲載されています。
今回のインタビューでは、本が生まれるベースになっているユミさんの暮らし方についてお話を伺います。
布作家・早川ユミさん〈旅を感じるレシピ〉シリーズ
■ 作ることが、気持ちの充実感と自信に「手や身体が喜ぶことを」
ーー高知の里山で暮らされていますが、毎日のルーティンは?
早川さん(以下、早川):例えば今日なら、朝起きて田んぼの水の見回りをしたり、畑でスナップえんどうやレタス、ルッコラなんかを収穫して、10時過ぎから仕事場でちくちく縫いものに取りかかる感じですね。私は衣服を作ったり、連れ合いの哲平さんは器などの焼き物を作ったり、それを生業にしています。
今はちょっと旅には出られないんですが、旅のなかで触れたものや感じたことを蓄積して、ものを作ったり、書きものをしたり、料理を作ったりしています。
■アジアでもヨーロッパでも。
その土地になじんでいる料理を味わう。
ーー『畑ごはん』のなかにも、タイで味わったヤムウンセンやソムタムなど、旅先の料理がいろいろと登場します。現地のおいしい食材や料理にどうやって出会うのですか?
早川:まず着いたら、土地の人が通っている市場を探して、現地の食材を買い求めるんですね。そうすると、市場のまわりにはたいがい食堂や屋台があって、すごく流行っているお店とか、みんな並んで食べてる!というものに巡り合う。そこでいろいろ食べてみるんです。
ーー帰国されてからも、おうちで再現して楽しんでいます。レシピはどうやって探っているのでしょう?
早川:そばに敏感な味覚の持ち主がいっぱいいますからね。家族みんながタイやインドが好きで、その国の料理も大好きなので、「味はこうだ」とか「こんなものが入っている」とかアドバイスをくれる。お弟子さんのなかにも海外に滞在していた人がいたり、タイのアーティストの方がしばらくうちで暮らしていたこともあるので、作り方を教わったり一緒に作りながら味を確かめたり。みんなのなかで磨かれてきたレシピですね。
■手を使ったり目で見たり、自分の感覚を研ぎ澄ましていくことが大事
ーー何でも手軽に手に入る時代、なぜ手間をかけて自分で作るのか、改めて手作りする魅力を教えてください。
早川:私は手の力をすごく信じているから。やっぱり食べ物などは、自分の手で時間をかけて作るとおいしくなるものもいっぱいあると思うんです。例えば、私たちが自然農で作っている畑の玉ねぎは、生で食べてもフルーツみたいな甘さがある。
本にも載せていますが、ラーメンに丸ごと入れる「玉ねぎラーメン」まで考案しちゃいました。玉ねぎがこんなにおいしいって、自分で作ってはじめて知ったんです。手で作るということは、触った感覚とか見た感覚とかを大事にしていくことになる。私は一番大切なのは、そういう自分自身の感覚を研ぎ澄ましていくことだと思うんです。
だから、手を使わないなんてもったいない! 私もパソコン仕事をして1日過ごすこともありますが、同じこの手が例えばお茶摘みをすると喜ぶ。手がうれしがっている気がするんです。そういう身体が喜ぶことが大切なんじゃないかなって。
■ものだって愛情を注ぐとかわいくなる
ーー食べ物以外でも、自分でお直しすることで、使い続ける工夫もされていますね。
早川:ものも、子どもや犬や猫と一緒で愛情を注いでいくと、かわいくなりますからね。これがね、とにかく楽しい!「もう使えない」と思っているものも、ちょっと手直しするだけでグンとかわいくなったりするんです。
例えば何回も洗ってボロボロになったマットを、いろいろな布でつぎはぎしたら、そっちの方がいいっ!って。ぞうきんなんかもね、赤い糸でステッチを入れたりして楽しんでいます。
ーー全部を手づくりできなくても、ちょっとだけ自分好みにアレンジすることなら、気軽にできそうです。
早川:ぜひ、お裁縫箱を手元において、ちくちく習慣をはじめてみてください。立派なものじゃなくても、使わなくなったお弁当箱に針や糸を入れておくだけでいい。そうすれば、自分でちょっとかわいく繕ったり、好みのボタンにつけ替えたり、楽しくできるはずです。
「サスティナブルに!」とか頭で考えるより、まずは小さなことからはじめてみる。暮らしのなかからできることって、いっぱいあると思うんですよね。私の野菜作りだって、かつてプランターに種を撒いたことからスタートしました。みんながそれぞれ好きなことに手を動かしていけば、いろいろなことが少しずつ変わってくるような気がしますよね。
■気持ちがいいから続けられる。暮らしの中で循環させること
ーー最後に、ユミさんの元気の秘訣があれば、ぜひ知りたいです。
全国の展覧会を巡回しながら、布仕事や執筆、畑仕事を続けておられ、いつもパワフルですよね。
早川:大きくしぼると3つあります。
1.身体を温めるお風呂
毎日のことで言えば、お風呂かな。本とかを持って1時間くらいゆっくり入ってしっかり内臓を温めることです。汗が出るくらいしっかりと。
2.生命力の高いフレッシュ野菜
あとはやっぱり食べ物ですね。田んぼや畑でつくった生命力の高い食べ物を食べているから。
3.丹田健康法で気をまわす
それと、高知の山内先生に長年習っている丹田健康法を続けています。簡単に説明すると、この山や畑の気を自分の丹田(下腹部)に取り込んで、身体のなかにぐるぐるまわすこと。エネルギーの補充になっているかもしれません。
ーー豊かな自然の恵みが身体を巡っている……。だから、いつもお元気なんですね。ユミさんは手作りすることと平行して、ものを無駄なく活用して循環させることも習慣にされていますね。
早川:暮らしのなかでものをまわしていく、ということも、すごく気持ちがいいことです。うちでは、食べ物が台所を中心に全部循環してる。台所から出た野菜ゴミは堆肥ボックスへ、それが畑の土に還って野菜の栄養に。鶏の好きそうな野菜クズは、おいしい卵に還る。
食べ物以外のものも考え方は同じ。着古した衣服などは、小さく切ったものを容器に入れて、台所や洗面などあちこちに置いています。ティッシュがわりにしたり、拭き掃除に活用したり。とにかく、最後の最後まで使い切るのが、私にとって楽しくて気持ちがいいことなんです。
早川ユミ/はやかわゆみ
アジアなどの布で手縫いの衣服をつくり、全国各地で展覧会「ちくちくツアー」をひらいている。夫の陶芸家の小野哲平の薪の窯たきを手伝ったり、種まき、木を植える。 『畑ごはんーちいさな種とつながる台所ー(文化出版局)
』、『くらしがしごと土着のフォークロア(天然生活の本)』(扶桑社)、『早川ユミのちくちく服つくり』アノニマ・スタジオ、『からだのーと』自然食通信社など著書多数。http://www.une-une.com/
●YouTube「種まきびとチャンネル」でも関連動画を公開中。
●Instagram:@yumi_hayakawa24
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料理/早川ユミ、写真/きょう・よく、新居明子、いのうえまさお 、取材・文/山形恭子、構成/鈴木理恵