味噌作りや梅仕事など、季節の手仕事に定評のある料理家のスズキエミさん。2022年3月に著書『季節を味わう手仕事レシピ』(主婦の友社)を上梓されました。
季節を追いかけるように手仕事を楽しんでいるというスズキエミさん。作ってすぐに食べられるものもあれば、時間をおくことで出来上がるものや、よりおいしくなるものも。
vol.1、vol.2ではレシピも含めて著書に収められている保存食について紹介しましたが、今回は、保存食や食まわりの手仕事についてスズキエミさんに伺いました。前編・後編の2回に渡ってご紹介します。
スズキエミ
料理家。料理教室「暦ごはんの会」、オンライン料理教室「一汁一菜暦ごはん」主宰。宮城県生まれ。夫と小学生の息子との3人暮らし。素材の持ち味を生かし、日本の季節を身近に感じられるようなごはん作りを、書籍や雑誌などで提案している。「時間はかけずに気持ちをかける」をモットーに紡ぎだされるシンプルなレシピが人気。著書に『四季を味わうにっぽんのパスタ』(立東舎)、『ずっとつくれる野菜ごはん』(主婦の友社)など。インスタグラム@suzukiemi.gohan
■料理教室で教える楽しさを知り、10年以上続けてきた料理教室。
――生まれは宮城県の石巻市なのですね。上京して音楽関係の仕事をされていたそうですが、料理の世界に転身したきっかけはなんだったのでしょう。
スズキエミさん(以下、スズキ):20代は音楽の仕事と掛け持ちで飲食店でアルバイトをしていました。お酒も出すカフェ兼バーのような店で働いていたとき、塩漬けのオリーブにオイルやハーブなどを合わせて前菜として出す料理があって。「こういうふうに食材に手をかけることで価値が生まれるんだな」と思い、食や料理が興味深いなと思ったことをよく覚えています。
――そこから本格的に料理の世界へ進んだのですか?
スズキ:友人のカフェの立ち上げを手伝ったり、別の友人たちと食関係のイベントをしたりしたのが転機だったと思います。イベントで料理教室をしたとき、とても楽しくてしっくりきたんです。それ以来、13年ほど料理教室を続けています。
――料理教室は「暦ごはん」と名付けてやられていますが、なぜ、暦だったのでしょう。
スズキ: 1年間を24に区分した「二十四節気」を汲みとっているのですが、この二十四節気は農業と深い関係があり、種撒きや収獲などの目安を担っていたようです。実家が農家だったので、その言葉や内容に違和感がなくスッと取り入れられたのが大きいと思います。料理する際は季節感を大事にしているので、その時季ならではの気候や食材、身体に取り入れる意味を踏まえて教室の内容を決めるようにしていますね。
■ワンルームのアパートで初めて作った「あんこ」
――ご実家が農家といえば、お祖母さまの影響が自身の料理と深く関係があるようですね。著書のなかの一人暮らしのアパートであんこを煮たという内容が印象的でした。
スズキ: 祖母は小豆を煮るのがとても上手なんです。日常的にあんこもよく煮ていて、私もそれが大好きでした。上京して、無性にあんこが食べたくなって市販のものを買って食べたら、すごく甘くてびっくりしたんです。実家から持たせられた「料理の基本」というような本にあんこの作り方がたまたま載っていたので、それを見ながら電熱線タイプの一口コンロで作ったのが初めてでした。18歳くらいのときでしたね。その後も、祖母に電話で聞いたり、帰省したときに教えてもらったりして、自分なりのあんこの作り方を確立したような気がします。
――本の中でも「あんこの手仕事」をレシピとともに紹介していますね。スズキさんは数えきれないほどあんこを作っていると思いますが、毎回、煮え方が違うというのは奥深いですね。
スズキ: そうなんです。豆が採れた時期や産地でも全然違いますし、鍋や火加減などでも大きく変わります。本にも記していますが、レシピはあくまでも道しるべで、大切なのは自分の感覚で確かめること。鍋の中の状態をよく見て、においを感じ、音を聞く。指で触ってみて、豆の状態を読み取ります。小豆と砂糖とほんの少しの塩。材料も作り方もシンプルだからこそ違いが顕著で、その発見が毎回、面白いんですね。
■旬のおいしさをとどめるように少しだけ手をかけることが当たり前の風景だった。
――今回の本は手仕事と保存食がテーマですが、あんこと同様にお祖母さまがやっていたこともあるのでしょうか?
スズキ: はい。保存食ってもともとは冷蔵庫がない時代や、畑で採れすぎたものを長く食べられるようにと生まれたものだと思うんです。実家の畑やご近所さんの畑でも、本当に驚くほどの野菜や果物が採れて。以前も「メロンを送ったよ」と夫の実家から連絡があり、届いてみたら段ボールいっぱいのメロンが2箱分も。まさにうれしい悲鳴でした。旬の野菜や果物をおいしくいただき、余ったら長く楽しめるように保存食にする。旬のおいしさをとどめるようにほんの少し手をかけることが私にとっては当たり前の光景だったんです。
――「春」の章にある山菜やたけのこなどもご実家での手仕事の様子がよく伝わってくるようでした。
スズキ: 厳しい寒さの東北だからこそ、春の訪れは子どもながらにうれしかったですね。山に「野ぶき」を取りに行ったり、庭から山へと続く道で「ふきのとう」を採って、ふきみそを作るのを手伝ったり。たけのこ堀りも晩春の行事でした。スーパーや八百屋さんでこれらの食材を見かけると、いまでも春の訪れに心が浮き立ちます。
→インタビューは次回に続きます。
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料理家のスズキエミさんが長年、続けてきた季節の手仕事の集大成的一冊。春夏秋冬、その時期ならではの保存食や常備菜のレシピのほか、祖母仕込みのあんこの手仕事やハレの日のお赤飯のレシピなども収録されている。
『季節を味わう手仕事レシピ』
聞き手/結城 歩 撮影(あんこ白玉・米粉パンケーキ)/スズキエミ