味噌作りや梅仕事など、季節の手仕事に定評のある料理家のスズキエミさん。2022年3月に著書『季節を味わう手仕事レシピ』(主婦の友社)を上梓されました。
季節を追いかけるように手仕事を楽しんでいるというスズキエミさん。作ってすぐに食べられるものもあれば、時間をおくことで出来上がるものや、よりおいしくなるものも。
著書には86ものレシピが収められていますが、その一部をご紹介。シリーズの最後には、スズキエミさんの特別インタビューも。どうぞお楽しみに。
季節の手仕事が当たり前のように身近にあった4世代の暮らし。
まだまだ冷たい水の中にふきのとうを放して、山の気配を呼び起こす。包丁のきわから、ほろりと苦いにおいが立ち上り、春はここだと教えてくれるのです。
店先にふきのとうが出始めると、庭から山につづくゆるやかな道に転々と咲くふきのとうのことを思い出します。枯れ葉をかき分け摘んだふきのとうで作るふきみそは春のはじまりの味です。
明治生まれの曽祖母を筆頭に4世代がいっしょに暮らす農家で育ったので、季節ごとの手仕事がとても身近にありました。
そこから離れ、東京で一人暮らしを始めた10代後半のわたしは、祖母のあんこが食べたくて、いてもたってもいられず、作ってみようと思い立ったのです。
でき上がったものは祖母のあんことは違うものでしたが、作っている間の温かな空気は、小さなころから知っている感覚でした。手仕事のはじまりは寂しい気持ちを埋めるところからはじまったように思います。
*「はじめに」より抜粋
春ならではの生命力あふれる食材と向かい合って
寒さが底を抜け、光と風にふわりとやわらかな気配を感じるころ。あちこちに春のきざしが現れます。
その訪れが特別にうれしいのは冬の長い北国生まれだからでしょうか。台所に立ち、料理をする手の動きも自然と軽くなっていきます。
春の食材の魅力はなんといってもそのほろ苦さ。ふきのとうに始まり、ふきやうど、たけのことつづく、山菜たち。
この時期、その苦味をおいしく感じるのは冬の間にたまったものを排出し、体が目覚めるのを助けてくれるから。
手仕事を通して、春ならではの生命力あふれる食材と向かい合い、香りや味を体いっぱいにとり込むうちに心身もすっきりとめぐり、ととのっていくようです。
食感と香りがよく、生でも食べられる「うど」を使った手仕事。
春先に出回る山うどは小気味のいい食感と野性味あふれる香りが魅力。生で食べられる扱いやすい山菜です。
【うどの下処理】
うどはたわしでこすって洗い、産毛を落とす。穂先と茎に切り分け、茎は適当な長さに切って皮をむく。酢水(分量外)につけ、茎は3分、皮と穂先は8 分ほど、それぞれアク抜きをする。
■レシピ
うどの皮のきんぴら
材料(作りやすい分量)
うどの皮と穂先(下処理したもの)…1本分
赤とうがらし…1/2本
酒…大さじ1
塩…小さじ1/4
太白ごま油…小さじ2
1)切っていためる
うどの皮と穂先はせん切りにし、赤とうがらしは小口切りにする。熱したフライパンにごま油を入れ、いため合わせる。
2)調味料を加える
皮がしんなりとしたら酒、塩を加えてまぜ合わせ、水分がなくなるまでいためる。
保存:冷蔵で1週間(色がだんだん黒ずんでくるので、3日ほどで食べきるのがおすすめ)
使い方:香りと食感のいい一品として、ごはんのおかずや酒の肴にそのままどうぞ。
スズキエミ
料理家。料理教室「暦ごはんの会」、オンライン料理教室「一汁一菜暦ごはん」主宰。宮城県生まれ。夫と小学生の息子との3人暮らし。素材の持ち味を生かし、日本の季節を身近に感じられるようなごはん作りを、書籍や雑誌などで提案している。「時間はかけずに気持ちをかける」をモットーに紡ぎだされるシンプルなレシピが人気。著書に『四季を味わうにっぽんのパスタ』(立東舎)、『ずっとつくれる野菜ごはん』(主婦の友社)など。インスタグラム@suzukiemi.gohan
※本記事は『季節を味わう手仕事レシピ』(主婦の友社)からの抜粋です。
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料理家のスズキエミさんが長年、続けてきた季節の手仕事の集大成的一冊。春夏秋冬、その時期ならではの保存食や常備菜のレシピのほか、祖母仕込みのあんこの手仕事やハレの日のお赤飯のレシピなども収録されている。
『季節を味わう手仕事レシピ』
撮影/野口祐一 再構成/結城 歩