家は3度建てないとわからないと言われますが、これまで自分のために建てた家は7軒。そんなパワフルな女性〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの井手しのぶさん。井手さんの家づくり顛末を6回にわたりお届けする連載第2回目です。
▶前回のお話は、
【女ひとりで家を建てる①前編】自分のために7軒もの家を建てた女性の家づくりの記録。
【女ひとりで家を建てる①後編】海のそばに住む夢を実現すべく家を建てたものの……。
朝は愛犬と浜辺の散歩。夕暮れ時はキッチンで食事の支度をしながら水平線に沈みゆく大きな夕日を眺める。そんな素敵な海辺の暮らしをあっさり捨てる決意をした井手さん。そもそも7軒に及ぶ家づくりの始まりは25歳の時。ただし湘南とは名ばかりの陸の孤島のようなエリアで買ったごく普通の建売住宅だった。
「当時、結婚したばかりでお金もなく、親が頭金を一千万円出してくれました。『家賃は捨てるようなもの。もったいない』というのが母親の持論で、背中を押されたんです。見つけた家は新築のままモデルハウスに使われて5年経ってしまった、いわゆる新古住宅。割安感があって決めたけど、よくある小さく間仕切られた4DKの2階建。とりあえず1階は壁を取り払って20 畳ワンルームのLDKにリフォームして住みはじめました」
毎月、頭金を親に返済しつつ残りのローンも組み、小さいながらもマイホームに親子3人。普通ならこれで一件落着で不思議はない。ところがどっこい。3年ほど暮らしたものの、バス停すら車で行きたくなるような不便さに加え、建売というお仕着せの住まいのあれもこれもが納得いかない。時はちょうどバブル真っ盛りのころ。地価が上がり、もし家を手放せば買った
時の倍値で売れそう。とはいえ逆に買うのも高い。でもこのチャンスを見逃す手はないとあらたに見つけたのは、指定された業者との建築契約がセットになった建築条件付の土地30坪。
「階段を上った先にある崖上の土地でしたが、若かったからまったく問題なし。日当たりはいいし、小田急線の長後駅までバスで出られて、近くにスーパーもあって便利!と当時はうれしかったけれど、よく考えるとなんてささやかな満足。結局、売買はトントンで、少し足が出るくらいでした。でもあらかじめ決められた建築業者によるセミオーダーですから、あちこち気に入らない。間取りを変更したり、建具や外壁を換えてもらったり。気づいたら追加工事費というトラップがありました」
最終的に持ち出しは増えたものの、なんとか延床面積 120㎡の2階建が完成した。1階がLDKで、2階はプライベートルームという当時の平均的な住まい。親子3人に今度は愛犬のゴールデンレトリバー、サンタが加わった。
まだ幼かった息子の良き相棒となり、一緒に成長。そんな幸せ一家がこの家に暮らしたのは約5年。実はちょっとした事件が起きて転居を考えざるを得なくなったのだ。
→【女ひとりで家を建てる②後編】に続く
『ku:nel』2016年5月号掲載
撮影 川俣満博/取材・文 佐々木信子(tampopo組)