古い家と古い家具に、遊び心を少しプラス。制作と緩やかにつながる暮らしー竹作家 安部仁美さん【住まいと暮らしvol.86】
部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。前回の野澤みゆきさんのバトンを受けてご登場いただくのは、竹作家の安部仁美さん。
安部さんの暮らしのルール
1, 心と身体の声に耳を傾ける
2. 制作と暮らしを切り分けず、自然につなぐ
3. 時間を重ねたものを大切にしながら、心地よさを探る
1960年代に建てられた海沿いの小さな平屋に暮らす、竹作家の安部さん。
「かつて教師や画家が暮らし、長い間塾としても使われ、人が入れ替わりながら受け継がれてきた家です。独立のために探している際に、この家を見つけました。
当時は“住む場所”よりも、竹材を置けること、ものづくりができる空間があることが何よりの条件。壁を珪藻土で塗り変え、畳を替えたくらいで昭和の面影はそのままに、工房として使い始め、やがて一部屋を寝室にして暮らすようになりました」
作業スペースの一角。「昔、友人からいただいた韓国の木の器は、フォルムや大きさが気に入って、長年愛用しています」
古い構造の平屋のため、雨の日は湿気を含み、夏は熱がこもり、冬は足元から冷えるといいます。
「一年中快適とはいえません。それでも、小さな平屋には心地よい尺度があり、季節の移ろいを感じる暮らしがあります。
家具も身につけるものも、素材の表情が感じられるもの、使うほどに時間を重ねたあとがそのまま美しさになるものに惹かれます。 素材感は心地よさに繋がります。
古い家に古い家具。そればかりでは重く感じることもあるため、照明やテーブルトップは、遊び心やユーモアのあるものを取り入れて。
制作と暮らしにはっきりとした境目はないという安部さん。
「作業スペースの一角にダイニングテーブルがあり、畳の部屋には竹材を置いています。制作が立て込めば空間は混沌とし、作る料理も生活リズムも自然と変わっていく。制作のために暮らしがあり、制作がまた暮らしを作っていると感じます」
竹材を置いたスペース。「作業で出た端材も、気分次第でオブジェのように飾っています」
制作と暮らしが自然とつながっているからこそ、大切しているのは自分の状態を確認する時間。
「朝は海岸を歩き、掃除をして、一日をゆっくり立ち上げます。歩いていると、その日の体調や心の動きが自然と見えてきて、一日の流れが少しずつ定まっていきます。
海を眺めていると、ふと作品のアイデアが浮かぶことも。心と身体が整うことで、次の景色が見えてくるような感覚があります。
その日の自分に合った過ごし方を選びながら、制作も暮らしもつないでいくこと。それが、私にとって心地よい暮らしです」
PROFILE
安部仁美/あべ・ひとみ
大分県生まれ。ファッションの世界を経て竹工芸の世界へはいり、2015 年より工房を構え、制作活動を続けている。「日常と非日常のあいだにあるようなもの、余白を残し遊び楽しむこと」が制作のテーマにあり、 竹という素材の特性、伝統的な籠編みの技法を軸として制作している。
安部さんがバトンを渡すのは、金工師の鎌田奈穂さん。「作品の揺るがない美しさ、そのフォルムの線質はいったいどこからくるのだろうと、作品のみならず隠れた魅力も知りたくなる。奈穂さんの感性と技術に触れる度に敬意がつのります」と安部さん。鎌田さんの暮らしは、9月上旬に公開予定です。どうぞお楽しみに。
取材・文/赤木真弓