【住まいと暮らしvol.54】季節の味わいを存分に楽しむ、山口での暮らしー藤本香奈さん

部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。前回の吉川亜有美さんのバトンを受けてご登場いただくのは、「日ト(ひと)」を営む藤本香奈さんです。

藤本さんの暮らしのルール

1)季節の味わいを楽しむ
2)長く使えるもの、次の世代に繋げられるものを使う
3)自然の恵みを生活に活かす

4年前に拠点を山口県に移した藤本さん。

「前々から夫とお店を始めたいと話していて、せっかくなら東京じゃない場所でと思いました。山口県は夫の出身地でもあり、馴染みがあったので、夫が仕事を独立するタイミングで家族で移住しました。

近所の方々は季節の仕事をとても自然にされていて、作ることが特別なことではなくなりました。家に梅や柿、ゆず、すだち、栗、花梨の木があり、実ったものをいただくのも自然な流れだと感じました。都内近郊しか暮らしたことがなかった私にとって、季節に沿った暮らしは、まだまだ知らないことばかりで楽しいです」

築50年ほどの、山口県でよく見られる石州瓦(せきしゅうがわら)の赤い屋根の民家。山間地域特有の環境に合わせた、さまざまな工夫をしているそう。

「湿気が溜まらないようにオープン収納にしたり、夜は周辺が暗いので、調光ができるような照明に。家の前に人通りがなく、広い景色を眺めるため、透明ガラスの引き戸がある玄関からすぐ、ダイニングからキッチンと空間をつなげる間取りにしました」

現在は、革を使った小物や鞄作りをしながら、ギャラリーを運営しています。

「ここでの暮らしは移り住んだからこそ見えるもの、感じることがたくさんあります。毎日の積み重ねで、暮らしがよくなっている実感があり、そういうことに気づく場所を作りたいと思って、ギャラリーを始めました。積み重ねはまだまだ続いていくので、これからどうなっていくのか、私自身も楽しみにしています」

 

 

鉄瓶と鉄のフライパンは、使い始めて6年ほど。「鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかでおいしいし、鉄のフライパンは厚みがあるので、野菜もお肉もとてもおいしく焼けます。どちらも生活に欠かせません」

よく使う台所道具は、金属、ガラス、琺瑯、石、陶器など、長く使える道具だそう。「山と田んぼに囲まれた家は湿気が多いため、必然的にこのような素材のものが多くなりました」

オイルやスパイス、調味料は、使いやすい瓶などに詰め替えて。台所は窓を開けると、風と緑がとても気持ちがいいのだとか。

藤本さん宅のキッチン。「湿気が多いので、作りつけの吊り戸棚やシンクを撤去して、オープン収納のキッチンにしました」

梅干しやらっきょう、梅酒を漬けて。「家に梅の木があるので、実った梅の実を毎年ありがたくいただいています。らっきょうはこの地域で採れるもので、近所の人に教わった漬け方がとてもおいしく、毎年漬けています」

台所近くの棚には、お茶やコーヒーの道具を並べて。

ある日のお昼ごはん用の野菜。「近くの方が育てた葉玉ねぎはこの時期ならでは。葉もとてもおいしい。菜の花は近所で摘んで、ケールは自分たちで育てたもの。新鮮なことが一番のおいしさだと、ここに暮らして知りました。焼いた野菜とごはんなど、シンプルに食べるものが本当においしいです」

 

築50年ほどの空き家だった家を、大工さんと一緒に改修したというご自宅。「玄関の引き戸以外の建具はほとんどそのまま使用し、床と照明、キッチンを主に替えました。台所から、ダイニングと玄関を見ると、視界が開けて気持ちがいいです」

自宅の目の前は畑と田んぼのため、人通りもなく、景色を見ながら過ごせるところがお気に入り。「リビングでは、子どもがピアノを弾いたり、夜には静かに本を読みながら過ごしています」

玄関からダイニングに入ったところにある壁には、絵や季節のものを飾って。

お昼ごはんは、ほぼ毎日夫と一緒。「写真は、自家製の葉わさびの醤油漬けと梅干しの混ぜごはん。鋳物で炊いたごはんもふわふわで美味しいです」

晩ごはんは、慌ただしい毎日のなかで、家族で過ごす大切な時間。「休日は朝から“晩ごはん何にしよう?”と会話するほど。鋳物の鍋やプレート、藁細工の鍋敷、作家さんの器など、使えば使うほど良いものに育ちます」

藤本さんが作る『MUMGROUND』の作品。「“静かに、存在感を持つもの”をコンセプトに、手縫いで製作しています。写真はコインケースです」

藤本さんが夫婦で運営しているギャラリー「日ト」。「季節や時間ごとに移り変わっていく光が、さまざまな景色を見せてくれます」

自宅(左)と日ト(右)の夜の景色。「自宅の隣にギャラリーがあるので、生活と仕事を行ったり来たり。田んぼに水が張られると、水鏡になってとてもきれいな景色です。蛍も毎年たくさん見られます」

profile

藤本香奈/ふじもとかな

東京生まれ。2009年より手縫いによる革製品を製作する『MUMGROUND』を設立。個展やアパレルブランドとのコラボレーションなどで作品を発表する。 2018年より山口県へ家族で移住。 2023年から山口市の山あいで、日々の道具を取り扱うギャラリー「日ト(ひと)」を オープン。空間デザイナーの夫と共に企画、運営している。夫、9歳の息子、3歳の娘との4人暮らし。
Instagram@hito_gallery

藤本さんがバトンを渡すのは、茨城県の笠間稲荷神社前でコーヒースタンド「naabe(ナーヴ)」を営む森下豊子さん。「森下さんは大学時代からの友人。近い時期にお互い東京を離れ、新しい場所での仕事や暮らしに、刺激を受け合っています」と藤本さん。森下さんの暮らしは、4月下旬に公開予定です。どうぞお楽しみに。

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