「ごく身近にあるエンターテイメント」として愛されている漫画。 超人気漫画家の柴門ふみさんは、どんな漫画に心動かされているのでしょう?
柴門ふみさん/さいもんふみ
漫画家(65歳)
徳島県出身。『クモ男フンばる!』でデビュー。『P.S. 元気です、俊平』で第7回 講談社漫画賞一般部門受賞、『家族の食卓』『あすなろ白書』で第37回小学館漫画賞青年一般部門受賞。『東京ラブストーリー』をはじめ、多くの作品が人気ドラマの原作に。『薔薇村へようこそ』はビックコミックオリジナル(小学館)で好評連載中。
人生のターニングポイントで「きっかけ」を与えてくれた漫画
5歳の頃、3歳違いの姉と6歳違いの従姉妹にお下がりの漫画をもらって読んだのが、柴門ふみさんと漫画との付き合いの始まりでした。「近所に貸本屋もあり、そこで借りた漫画と、両親からは絵本を買ってもらい、どちらも楽しく読んでいました」
少女漫画から足を踏み入れた漫画の世界だったものの、次第に惹かれたのは少年漫画の活劇物。1959年に『少年サンデー』や『少年マガジン』が創刊されたこともあり、手塚治虫さんやちばてつやさんの漫画に夢中に。とくに好きだったのは、少年がかっこいい漫画。石ノ森章太郎さんの『サイボーグ009』の009が頂点でした。
「任務に呼び出された009が半裸でベッドに横たわっているシーンがあり、ハッとして。私にとってのヰタ・セク スアリスでした。あの頃は海外の映画が大きく影響を与えていたから、半裸でシーツを纏うシーンなどの影響だったんでしょうね。そうこうするうち、中学2年生になるとサイモン&ガーファンクルや吉田拓郎さんに夢中になり、漫画をあまり読まなくなりました」
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ファッション界を舞台に、女のリアルな感情を描く
そんな柴門さんが再び漫画に惹かれたのは、高校2年生の終わりでした。一条ゆかりさんの『デザイナー』を読み、リアルな恋愛感情に衝撃を受けました。当時、私も辛い片思いに苦しんでいたので、思い切り感情移入もして。そして初めてこういう漫画を描いてみたいという気持ちが生まれたんです」
そこから柴門さんには、漫画が読むものであるのと同時に描くものになっていきました。大学では漫画研究会に所属し、人生が漫画へと進んだのです。 今回おすすめいただいた3冊は、どれも柴門さんに「きっかけ」を与えてくれた作品です。
「漫画を描きたいという気持ちにさせてくれた『デザイナー』。漫画は子供だけのものじゃない。大人の女性も描いていると、漫画の可能性を教えられた『火の鳥 黎明編』。そして漫画家として簡単な線で叙情を表現することを教えられた『青の時代』です。やはりレジェンドたちの古い作品を読むと改めてすごいなと感じます。とにかくおもしろいんです。中途半端な年齢で読むと“絵が古臭い”と思って読まなくなる。でももう一周してから読むと、その先生の作風だなと思って再びおもしろくなる。それがとにかくいいんです」
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淡々とした心象風景の中に、たった一本の線で叙情を表現
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今までの少年漫画が描かない、「子供を産む女」の存在を見た
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/柳原久子 取材・文/今井 恵