1972年から少女マンガ誌『週刊マーガレット』に連載され、当時の「少女マンガで歴史ものはあたらない」という常識を覆して大ヒットした『ベルサイユのばら』。夢中になって読んだ方も多いのではないでしょうか。親から子へ受け継がれ、今でもその人気は衰えません。
連載から50周年を記念し、2022年9月17日(土)から東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催される「誕生50周年記念 ベルサイユのばら展 -ベルばらは永遠に-」を前にku:nelの先輩世代でもある作者・池田理代子さんにお話を聞きました。
池田理代子さん
1947年大阪府生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)在学中の67年、漫画家デビュー。72年『ベルサイユのばら』の連載を開始。2000万部以上を売り上げる大ヒット作となる。80年『オルフェウスの窓』で第9回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞。2009年には、日仏文化交流への貢献を称え、フランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエが授与された。1995年には47歳で東京音楽大学声楽科に入学。卒業後は声楽家としても舞台、CDなどで活躍するほか、オペラのプロデュースなども手掛けている。また歌人として、第一歌集『寂しき骨』を上梓。『塔短歌会』同人。
■差別が当たり前の時代に切り拓いた道
──50周年おめでとうございます。半世紀も『ベルサイユのばら』が愛される理由は何だと思いますか?
読者の方に聞きたいですね。連載当時にリアルタイムで読み、人生の節目で何回も読んでくれたという方の中には、「何度読んでも毎回新しい発見があり、感動できる」と書いてくれた人もいました。
──フランス革命を描こうと思ったきっかけを教えてください。
高校2年生の夏休みに、シュテファン・ツヴァイクの『マリー・アントワネット』を読み、いつかフランス革命だけでなくマリー・アントワネットの物語を描いてみたいと思いました。
彼女の若い頃の無邪気な可愛らしさに惹かれ、フランス革命という大変な不幸に巻き込まれて、その中で人間として立派に目覚めていく、その過程がとても感動的で、いつか描きたいなと思いました。
当時は、男女の格差がひどく、「女こどもに歴史なんかわかるわけがない」と言われたことが今でも記憶に残っています。
──オスカルは、現代でもジェンダーの視点から斬新な設定かと思いますが、問題意識を反映させたキャラクターなのでしょうか?
いいえ。当時は「ジェンダー」という言葉さえなく、男女差別が当たり前の時代でした。上司のセクハラにあってアルバイトをやめざるをえなかった時には、若い女の子はこういう目にあうんだと考えるしかありませんでした。
同じ雑誌に掲載していて同程度人気の漫画でも、女性は男性のギャラの半分。ある時、それはなぜかと聞いてみたら「男は、将来結婚して女こどもを食べさせていかなければならない。女性は男性に食べさせてもらうのだから、男が倍もらうのはあたりまえだろ」と言われました。そんな時代だったのです。
■夢を持ち、叶えるために
──差別にも負けず、少女漫画に革命を起こした池田理代子さん。『ベルサイユのばら』は、世代を超えて愛されていますが、現代の読者はどう受け止めているのでしょうか。感想で印象的なものはありますか?
若い人たちは、どのように生きればいいのかを悩んでいる人が多いように感じます。いい大学に入ったのに、自分のやりたいことがわからず、学校にも行かず、家で鬱々としていた時に『ベルサイユのばら』を何度も読んで、学校に行こうという元気が出たという方からお手紙をいただきました。「夢が持てない。どうしたら夢が持てるか」という質問をよくされますね。夢が持てない時代なのでしょうか。
──ご自身は、47歳で声楽家を目指して音大に入学したり、常に新しいことに挑戦して夢を叶え続けていますよね。その秘訣を教えてください。
実は、私にとって漫画が一番新しい挑戦なのです。音楽は、子どもの時からやっていて、高校生の時まで音大に入るつもりで勉強していました。昨年、初めて歌集を出したのですが、短歌も中学生の時から詠んでいました。それがやっとこの年になって実ったというわけです。ある意味、私にとって一番新しい挑戦が漫画でした。
──夢をたくさん持ち続けるということが、人生の充実につながっているのですね。若い方にはどんなアドバイスをされるのでしょうか。
「努力すれば夢は叶う」とよく言われますが、それはきれいごとだと思うんです。努力しても叶わない夢の方が絶対に多い。運もあるし、持って生まれた才能もあるし。努力したら夢が叶うとは言えないけれど、努力しなければ夢は叶いません。
■後悔のない人生とときめき
──人生に影響を受けた人はいますか?
モハメド・アリは、私の生き方を決めてくれた人です。彼は、徴兵を拒否し酷い目にあいながらも、自分の持っているもの、名声、色々なものを捨てました。プロボクサーの資格まではく奪されても抵抗し、自分の意志、信念を曲げませんでした。こういう人生に自分もしたいなと思いました。
また、世界中で戦争や紛争があり、難民が増えているなかで、国連難民高等弁務官をなさった緒方貞子さん。彼女のような女性がもっと増えてくれると嬉しいなと思います。
──今後、挑戦したいことはありますか?
今は、なるたけ人に迷惑をかけずに、どうやって自分の人生をしまうかを考えています。若い頃持っていた音大に行きたいという夢も叶えましたし、歌集も一冊出させていただいて、何も後悔することがない人生を歩むことができました。
──「ku:nel」は、マチュア世代のときめきをテーマにしています。池田さんは、ときめきを感じるものはありますか?
実は、今年からテニスを始めました。弱ってきた足腰を鍛えるために始めたので、ときめきとは少し違いますが。
また長らく東京に住んでいましたが、5年ほど前に熱海に引っ越しました。東京にいた時には感じられなかった、自然の移り変わりにときめているかもしれません。
本来人間は、朝起きて窓を開けた時の鳥のさえずりや、林や森や山が日ごとに色を変えていく、そういったことに感動を覚えてるのが、普通だったのではないかなと思います。
──では最後に。50周年という歳月をどのように感じますか?
50年とは想像もつかない時間です。生きてないのではと思っていたほど。連載当時、私は24歳の小娘でした。その時代、漫画は文化として認められておらず、「学歴のない人が子供に害を与えている」と言われたり。50年を経て、漫画の知名度や地位はあがりましたが、まだまだ向上の余地があるように感じます。
新型コロナで展覧会を開催できるかわかりませんでしたが、こうして開催を控え、とても楽しみにしています。
誕生50周年記念 ベルサイユのばら展 -ベルばらは永遠に-
連載開始から50年を記念し、連載当時の貴重な原画を、池田理代子さんの作品への想いや言葉を交えながら展示。宝塚歌劇の章では、劇中の“オスカルの居間”をイメージしたコーナーのほか、舞台衣裳や小道具などで華麗なるその世界を紹介。テレビアニメや懐かしのグッズ、現在にも続く展開もたどるなど、多彩な切り口で不朽の名作の軌跡と全貌に迫る展覧会。
会期: 2022年9月17日(土)~2022年11月20日(日)
開館時間:10:00~22:00(最終入館:21:00)
会場: 東京シティビュー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
https://verbaraten.com/
大阪ほかにも巡回(ただし展示内容や順番は会場によって異なります)
取材・文/