料理家・高山なおみさんが自身のウェブサイト「ふくう食堂」に綴る日記を収録した、人気エッセイシリーズ『帰ってきた 日々ごはん』。2002年に『日々ごはん①』の日記がスタートし、神戸に拠点を移した4年目の夏から冬にかけての日記を綴った最新刊『帰ってきた 日々ごはん12』で24冊目。今年で日記を書きはじめて20年を迎えました。
静岡県に暮らす90歳の母親との別れ、生きることと死ぬことについて綴った本書から、3回に渡って日記の一部をご紹介。2回目の今回は、11月の日記から。心の動きを感じたままに書き留めた高山さんの文章が、鮮やかに情景を写し出します。
高山なおみ/たかやまなおみ
958 年静岡県生まれ。レストランのシェフを経て、料理家になる。文章も料理と同じくからだの実感に裏打ちされ、多くの人の共感を生む。2016年、東京・吉祥寺から、神戸へ住まいを移し、ひとり暮らしをはじめる。本を読み、自然にふれ、人とつながり、より深くものごとと向き合いながら、創作活動を続ける。http://www.fukuu.com/
著書に日記エッセイ『日々ごはん』シリーズ、料理本『野菜だより』、『おかずとご飯の本』(以上アノニマ・スタジオ)など、絵本に『みどりのあらし』(岩崎書店、絵・中野真典)、『ふたごのかがみ ピカルとヒカラ』(あかね書房、絵・つよしゆうこ)、『おにぎりをつくる』『みそしるをつくる』(ブロンズ新社、写真・長野陽一)など多数。 公式ホームページアドレス高山なおみさんの日々ごはん
■2019年11月3日(日)の日記より
六時半に起きた。
カーテンを開けると、ベッドの脇の壁がオレンジ色に染まった。
絵にも映り込んでいる。
それは、中野さんが描いた少女の絵なのだけど、私は母だと思っている。
母が息を引き取る前に見せた表情に、そっくりなので。
顔のまわりの色が、ふだんは燃えるようなオレンジ色なのに、今朝は黄色に見えた。
母が亡くなったのは夕方だったから、夕焼けの色だと思い込んでいた。
こんなに黄色かったのか。
絵は、本当に不思議。
見る方の気持ちで、いつも変化する。
気持ちというか、視覚によって、
今朝はなんとなく、母に祝福されているような気がした。
「なーみちゃん、よかったね」
ゆうべ、寝る前に『ふたごのかがみ ピカルとヒカラ』を読んで、少しだけ気になるところが出てきた。
朝起きて、どうしようかな……と思っていたのだけど、朝風呂から上がって、ふと雲を見て、やっぱり直したくなった。
ダミー本をもういちどゆっくり読み返す。
絵本の読み聞かせをするときは、「隙間が空いたところでは、読む方もひと呼吸おいて、ゆっくり読むの。大きい字のところは、大きく、はっきりと、区切って読むさや」と母に教わったので(このときのことは、今校正中の『帰ってきた 日々ごはん⑥』に出てくる)、その通りにしてみた。
そうすると、絵本の中の空気が広がる。
読んでいる方も、聞いている方も、絵に浸ることができる。
そうか。今ごろ気がついた。
ありがとう、お母さん。
夜ごはんは、味噌ラーメン(ゆうべの小松菜とほうれん草のにんにく炒め、ゆで卵、ねぎ)。
※本記事は『帰ってきた 日々ごはん12』(アノニマ・スタジオ刊)からの抜粋です。
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帰ってきた 日々ごはん12
料理家、文筆家の高山なおみさんの日記エッセイ『帰ってきた 日々ごはん』シリーズの第12 巻。神戸でのひとり暮らし4 年目の2019年7月~12月の日記を収録。
アノニマ・スタジオ
プロフィール写真/枦木功 再構成/赤木真弓