〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの松永加奈さんは大の漫画好き。「子供の頃からずっと傍にあって、大人になった今もいろんなことを教えてくれる「漫画」。ページをめくるたびどきどきわくわく、リアルもファンタジーも、安らぎも恐怖も…読みだすとつい時間を忘れ、没入感に浸ってしまいます」。
今回は、漫画専用棚から選んだ、マチュア世代におすすめの3作品を紹介していただきます。
トルコの街と人々を生き生きと綴った
連載30年のエッセイ漫画
80年代から『りぼん』(集英社)をはじめ、数々の漫画雑誌で活躍してきた漫画家・高橋由佳利さんが、自身のトルコ生活や家族とのエピソードを綴ったエッセイ漫画『トルコで私も考えた』。
90年代初頭、初めて旅したトルコに魅せられ、語学留学を経て結婚し、トルコへ移住した高橋さん。言葉や食生活、習慣の違いはもちろん、おおらか(すぎ?)なトルコの人々との交流には、発見や驚きがいっぱい。トラブルやハプニングにも事欠きませんが、どれも愛情とユーモアをもって描かれ、著者の逞しい姿にいつ読んでも前向きな気持ちになれる作品です。
この作品に出合ったときは、海外留学にも興味がない学生だった私。でも生き生きと描かれる「外国暮らしのリアル」が本当に面白く、長年愛読しながらずいぶん大人になったある日、夫のソウル転勤が決定。「いざゆかん!」とこの作品を全巻抱え、その後パリにも携えて行きました。
生活がスタートすると、ソウルもパリも予想外のハプニングが続出。そんなとき、国は違えど「ふふん来たわね、予習通りだわ」と暗記するほど読んだページを思い返して乗り切り、心が折れた時は「そういえばトルコでも…」と涙目で本棚から取り出して復習。現地の日本人の友人や国際結婚組からも「わかるー!」と共感を呼び、外国では「海外生活のバイブル」、日本では「元気の出る生活教本」として欠かせない存在に。 現在は日本で暮らすマチュア世代の高橋さん、連載継続中です。
一家離散事件の謎を追いながら
「質屋」と「宝石」のリアルがわかる
ドラマ化やクラシックコンサート開催など、一大ブームを巻き起こした『のだめカンタービレ』の作者・二ノ宮知子さんが、2014年から連載している『七つ屋志のぶの 宝石匣 』。
舞台は東京・銀座の老舗質屋「倉田屋」。宝石の〝気〟を感じて鑑定ができる女子高生・倉田志のぶと、訳あって幼いころ倉田屋に預けられた名家の跡取りであり、今は高級ジュエリー店の外商・北上顕定。そんな2人(一応婚約者同士)が、北上家の一家離散事件とそれにまつわる宝石の謎を追う中で、彼らを取り巻く人々の人間ドラマが展開していきます。
この作品では、「質屋」業界の裏側が見られること、そして次々に登場する「宝石」がわかりやすく解説されているところが魅力。普段、あまり触れる機会がない二者ですが、読みながら「へー」「なるほど」と雑学や知識が身に付く気分に。ちなみに「七つ屋」とは質屋を示す隠語。イケメン顕定をはじめ個性豊かなキャラクターの活躍と、入り組んだ人間関係の謎解きもいよいよ佳境。現在単行本刊行は17巻、「Kiss」(講談社)にて連載中です。
スタイリッシュに描かれる
80年代の東京とバンドシーン
1985年から87年まで『週刊少年サンデー』に連載された上條淳士さんの『TO-Y』。 主人公はパンクバンドのボーカルだった高校生の藤井冬威(トーイ)。あるできごとをきっかけにスカウトされ芸能界入りした冬威が、業界の渦に巻き込まれながらも、自分が望む音楽を表現するため駆け抜けていく姿を描いた作品。多くのバンドマンや漫画家に影響を与え、「バンド漫画の金字塔」と呼ばれています。
80年代当時の東京の街と音楽業界がスタイリッシュに描かれ、 シャープな線で描く人物や風景が文句なくかっこいい『TO-Y』。ときは音楽番組全盛期、登場人物には「あの人がモデルなのでは?」という歌手やアイドルも。バンドには興味がないという方も、勢いのあるあの時代が懐かしく思い出されるはず。全編に疾走感満載で、衝撃のクライマックスと、ぐっとくるラストカットは、現代でも色あせない名シーンです。