住みたい空間を実現するときばかりでなく、事情が移ろって住みかえることも、人生にはつきもの。 新しい住まいでどんな空間や生活を見つけ作っていくのかが肝心です。来し方も糧に、引越しで新しい平安を得たストーリーに共感!
山下りか/やましたりか
手仕事作家、ライアー奏者
雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍 した後、長期旅行気分 でNYに渡る。アメリカで家族を得て1997年に帰国してからは、 竪琴の一種であるライアー奏者、また手仕事の作家として活動した
り、教える仕事も。
転居と工夫の歴史を経て今、 ゼロからの家づくりにはまる
「いわゆる引越し人生でした、今まで」という山下さん。20代半ばで渡米し、家族を得て…… 97年に帰国。
「子供たちにシュタイナー教育を受けさせていたので、日本でも同じにしたいと通学に便利な吉祥寺に住みました。 その後20年以上、子供の学校の移転に合わせたり、受験、進学のために都心に出たりと、とにかく便利さいちばんで引越しを重ねてきました」
理想の家を追求ではなく、母、生活者としての選択。ただ、満足な点ばかりではない家にどう住むかは、その人の才知によるものです。
帰国後だけでも テラスハウス、和風の家、ウッディな家、都心の細長い家と形も多様ですが、 「課題を与えられるのは好きで、インテリアもやりくり!シンプルなチェアやソファ、テーブル、人の手で作られ使いこなされた家具を、その家に合わせ予算抑えめで買い足したり、ありもので工夫をしたりでやってましたね」
元『オリーブ』誌スタイリストの魂は熱く生き、ナチュラルで心地いい空間を作っていた様子は想像できます。
「子育て時代は、自分の趣味を押し出 すより、子供が楽しい空間というのも考え整えていたつもり。でも最近になって子供たちに『どこもお母さん風にやってたでしょ』と言われてびっくり」
\丘の上に見つけた!自然、一人を満喫する家/
海外に仕事の場を見つけた息子が巣立った後、娘ともそろそろ別に、一人で暮らそうと発起。家を探していた山下さんに友人が紹介してくれたのは、 鎌倉の丘の上の古い家でした。
「正直ボロボロ。住むには相当手がかかるけれど譲渡してもらえ、好きなようにやれるのが大きな魅力でした」
最初家族に反対されたものの意を決し、この家に越したのが一昨年秋。 ……でしたが入居までまた物語です。
「腕に覚えのある友人が天井と床、内壁の撤去をやってくれ、補強は大工さんにお願いし、あとは頑張ったんです。 土間は煉瓦を自分で運んで敷きました。 3.5 kgの耐火煉瓦630個を6個ずつ背負子に入れ108の段を上り20kg の砂利も……」
友人たちの手も借りて、掃除やベニヤを張った壁にペンキを塗るなど居住性を高めて2か月後に入居。
「セルフでの家づくりは、やってみたかったことばかりで楽しかったけれど、大変なことは多くて。友人たちの温かさを痛感しながらの作業でした」
『クウネル』2022年5月号掲載
写真/玉井俊行、取材・文/原 千香子