佐藤隆太の一人芝居、待望の再演!『エブリ・ブリリアント・シング』/演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめ
演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんの連載「演劇が呼んでいる」。今回のおすすめ作品は、一人芝居の佐藤隆太を囲む観客も舞台に参加する『エブリ・ブリリアント・シング~ありとあらゆるすてきなこと~』。ユニークで素敵なステージが待望の再演です。
PROFILE
伊達なつめ/だてなつめ
舞台観劇三昧でヨーロッパを彷徨中。ドイツ各地で、パンとチーズのおいしさ、緑の多さと鳥の声の美しさに癒やされています。
あたたかい感情に包まれて、劇場の力を実感する
舞台をグルッと360度囲む客席に座ると、いやでも対面に座る観客の様子が目に入ります。この舞台はそこが肝。観客全員が、入場時に番号を書いたカードを渡され、佐藤隆太扮する「僕」に呼ばれて、カードに書いてあることを読み上げたり、場合によっては登場人物のひとりとして「僕」の相手役を務めることになるからです。番号とともに紙に書いてあるのは、
1 アイスクリーム
26 こっそり海でするおしっこ
315 古い本の匂い
994 言うことを聞いてくれる美容師
2001 原作よりも面白い映画
10000 恋人とお昼まで寝ること
などといった、「僕」が思いついた、この世界のありとあらゆる素敵なこと(every brilliant thing)。
観客に向かっていたって明るく振る舞う「僕」ですが、実はこんなことを書き始めたのは、7歳のときにお母さんが自殺未遂をしたことがきっかけでした。「僕」は、観客を父やスクールカウンセラーなどに指名して、その経緯をサラッと再現してみせます。そしてその後も、お母さんに元気になってほしい一心で始めた素敵なことのリストは増え続けます。つまり、お母さんの様子はつねに芳しくなく、成長する「僕」の人生もままならないのです。
それでも、佐藤隆太という俳優が持つ包容力や親近感や誠実さが、舞台をともにした観客に、前向きになれそうなあたたかい気持ちを芽生えさせてくれます。生きづらさが加速する日々、劇場は共感という心の避難所になることを、強く実感できる名作です。
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あの終戦を忘れないための季節でもある日本の夏。戦争で夫を失いながら明るく力強く生きる女性たちの前に「英霊」となったはずの青年(松下洸平)が帰還する1947年の物語を。
『ku:nel』2023年9月号掲載 文/伊達なつめ
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