作家であり料理家としても活躍する樋口直哉さん。数多くの料理関係蔵書のうち、よく使う一軍はキッチンの棚に並べています。そんな樋口家キッチンの本棚から、食に関するおすすめ本をピックアップいただきます。
<後編の記事はこちら>
【お腹がすく本3冊】料理家・作家 樋口直哉さん「おいしい料理本の世界」後編
樋口直哉/ひぐちなおや
作家、料理家。服部栄養専門学校卒業。フランス料理店や料理教室などで修業する。2005年『さよなら、アメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家としてもデビュー。『おいしいものには理由がある』や『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)など料理関係の著 作多数。本誌連載も好評。
フラットにアジアをフィーチャー
『おうちで本格 アジアごはん』
鈴木珠美
著者の鈴木珠美さんはベトナム料理レストラン「kitchen(キッチン)」のオーナーシェフ。いわばプロの料理人だがこちらの本に並んでいるのは作りやすさも十分に配慮されたエスニック料理だ。タイ料理やベトナム料理の他、インドネシア料理、韓国料理と幅広く収録されているのが面白い。巻末のアジア食材が入手できるお店のリストもためになった。スタイリングもかわいいので、写真を眺めるだけでも参考になる。少し前に刊行された本だが、香りが強く、軽やかな味のアジア料理は今の雰囲気にあう。(角川SSコミュニケーションズ刊)
著者の来し方がにじむ料理の集積
『日本のおかず』
西 健一郎
西さんはいわゆる料理本の類をあまり残さなかったが、晩年出したこの本には普段、食べたいおかずがたくさん並んでいる。料理屋の料理ではなく、家庭の料理。そこに西さんの真髄が隠れている気がする。せりと切り干し大根の胡麻和えという料理にこんな文章が添えられている。〈母親がこの切り干し大根によくせりを和えたのは、家の脇の小さな川の、きれいな水が流れるところにせりが生えていたからです。子ども時分、よく摘みに行きました。冬の川の水が冷たくて、手がかじか んだのが忘れられません〉。料理は思い出の積み重ね。西さんは2019年に亡くなり、新橋にあった建物も今はもうない。(幻冬舎刊)
丁寧に作られた珠玉のレシピ本
『ウー・ウェンの北京小麦粉料理』
ウー・ウェン
いつも薦めている名著だ。映画のようなプロセス写真に考え抜かれたレシピ。著者の着る服にまで細かく気が配られていて、どうやったらこんなに丁寧な本が作れるのだろう、と感嘆する。しなやかだけど力強く、繊細でいて大胆。「葱餅」や「花巻」はこの本を見て、何度も作った。料理はレシピではなく、 何を伝えられるか、だとどこかでウーさんが語っていた。小麦粉と水、塩だけをあらゆる形に変えていく北京の小麦粉料理を通して、人がどんな風に生きてきたのかまで学べる。存在感のある強い本だと思う。(高橋書店刊)
写真がない料理本のメッセージ力
『アート オブ シンプルフード』
アリス・ウォータース
今回、おすすめした本には大きく「お腹がすく本」と「料理が上手くなる本」という2つのテーマがあるが、この本は間違い なく後者。なにせ料理写真がなく、調理法が細かく記されている。著者は「シェ・パニース」という伝説的レストランのオーナーで、アメリカだけではなく料理の世界を変えた一人。そのカッコいい先駆者の食の近況料理原則が9つにまとめられているが最後の3つは「みんなで一緒に料理しましょう」「みんなで一緒に食べましょう」「食べ物は尊いということを忘れずに」というもの。 今の時代にも響くメッセージだ。(小学館刊)
エッセイ 樋口直哉 / 写真 徳永 彩 Kiki / 再編集 久保田千晴
●その他、食べ物のトピックいろいろ。
◎【話題のダイエット食材を樋口直哉さんが調理①】糖質ゼロのカリフラワーライスで正月太りリセット。