【私の東京の味】平松洋子さんが選ぶ、ひとり楽しむ東京の昼ごはん4軒(前編)
春爛漫、ひとりふらりと思いつくままに散歩をしたり、気になった美術展を訪れたり、そんなことが心楽しい季節になりました。食に関する著作も多い平松洋子さんが「東京の味」として選んでくれたのは、そんな季節に訪れたいお昼ごはんがおいしい4つのお店。前編では変わらぬ味の老舗洋食とフルーツサンドの名店を紹介します。
目 次
『レストラン桂』日本橋に根付いて親子2代。小さな洋食店には家族の物語が。
コレド室町のすぐ脇、緑色のテントが目印の小さな洋食屋さん。1963年に現在のオーナーシェフの手塚清照さんの両親が創業し、日本橋の人々に愛され続けてきた家族経営のお店です。
こちらに心惹かれ、平松洋子さんは20年以上前から通い、お昼時に訪れることが多いそう。丁寧に作られたハンバーグステーキやシチューといった定番の洋食メニューは昼夜共通。夜には唐揚げやポテトサラダなど、お酒のためのおつまみメニューもあり近隣のオフィスワーカーや地元の商家の人たちの憩いの場所になっています。
平松さんおすすめの右写真の一皿など、人気の高い定食は2日ごとに内容を変更。「メンチカツなどフライ料理が人気ですね」と手塚さん。
レストラン桂
住:中央区日本橋室町1-13-7
営:11:00~14:00(13:45L.O.)17:00~21:00(20:30L.O.)
休:日、祝 土曜は夜休
予:夜のみ可能
『ストロベリーフィールズ』3代にわたる果物店が作り出す、愛情のこもったフルーツサンド。
戦前から果物の卸しの仕事をしており、果物屋さんとして開店したのは1951年。その後、フルーツパーラーを併設したのが約30年前という『ストロベリーフィールズ』。「パフェやフルーツジュースもおいしいけれど、お昼ならフルーツサンドイッチがおすすめ。落ち着いた接客と雰囲気に心がなごみます」と平松さん。
素材に合わせてカットされた7種類ほどのフルーツの酸味と甘味、あっさりしたクリームやパンとのバランスもよく、ぺろりとお腹に収まります。「丁寧で気持ちのこもったサンドイッチ。地域に根差した昔ながらの家族経営の温かさがいいんです」。
見た目重視の流行とは一線を画すホームメイドのおいしさです。
ストロベリーフィールズ
住:新宿区西新宿6-2-16
営:10:00~15:00(L.O.)
休:土、日、祝
予:テイクアウト含め予約可
充実ぶりがうれしい東京の昼ごはん処といえば?
「誰かと約束をすることもなく、自分ひとりの時間を楽しむことって大事なことですよね。ひとり客にも対応してくれる使い勝手のいいお店がいっぱいある、それも東京の良さのひとつかなと思います」
いずれの店も素材を吟味し、「気持ちが入っている料理を出してくれる。そういう料理が好きなのです」と平松さん。
たとえば、日本橋あたりに昼時にいると自然と足が向くのが『レストラン桂』。日本橋で61年、2代目の手塚清照さんの父母が創業した愛すべき洋食のお店です。先代の跡を継いだ息子と共に、母親である80代の「ママさん」もかくしゃくとして立ち働いています。
「日本橋という土地に根付いて、家族経営を守ってきた小さなお店ですが、日本橋を愛し、また日本橋にやって来る人たちにどう愛されるかを家族で考え、味を継承していらっしゃいます。そんな家族の歴史やストーリーに、お店を通してじかに触れることができる。そういう出会いを入り口に東京に親しむと、また違う街の顔が見えてくると思います」
家族経営のお店が好きという平松さんがおすすめする西新宿の『ストロベリーフィールズ』も親子3代にわたって、この地で果物の商売にいそしんできました。昭和の頃には入院見舞いには果物を持っていく習慣があり、そのため大きな大学病院があるこのあたりには果物屋さんが多かったという背景があるのだとか。
「そんなお店の成り立ち、地場の果物屋さんがサンドイッチやパフェでお店の間口を広げていった物語を知るとお店を訪れる楽しみも増していきますね。フルーツサンドイッチも本当においしいです」
PROFILE
平松洋子/ひらまつ・ようこ
1958年、岡山県倉敷市出身。『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。近著に『酔いどれ卵とワイン』(文春文庫)。©渡邉茂樹
『クウネル』2024年 5月号掲載 写真/新居明子、取材・文/船山直子
SHARE
『クウネル』No.126掲載
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