【住まいと暮らしvol.55】移住した笠間市で、古いものと作家の作品に囲まれてー森下豊子さん

部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。前回の藤本香奈さんのバトンを受けてご登場いただくのは、コーヒースタンド「naabe(ナーヴ)」を営む森下豊子さんです。

森下さんの暮らしのルール

1)近くを見ながら、遠くのことを想像する
2)遠くを見ながら、近くのことを想像する
3)よく笑い、よく怒り、よく考えて、よく楽しむ

夫婦で映像製作やアニメーション制作などの活動をする、森下豊子さん。茨城県笠間市には、7年前に移住しました。

「子どもたちがのびのびと過ごせる環境を求めて、移住を意識しました。情報と消費が過多な都市での生活に疲れを感じはじめていた頃、少し離れてみようと移住を決心。選んだのは母の郷里である茨城県。笠間市は陶芸の里なので作家さんが多く住み、創作活動が身近。ナチュラルで素敵な生活をしている方が多く、大学の同級生でもある陶芸作家さんの拠点でもあったので、魅力を感じました」

丘の上の高台に建つ今の住まいは新築。もともと空き家が建っていて、ここでの暮らしが想像できたことが決め手になったそう。

「家の設計は、映像制作をしている夫がだいたい担当し、地元の工務店さんに図面を起こしてもらって、相談しながら建てました。インテリアは好きな古道具や古家具で揃えています。元々建っていた空き家の太い梁などを再利用して、漆喰の壁は古家具とのなじみもいい気がします。生活に添い続けてきたものに囲まれると居心地がよく、遊びに来る友人たちも、わが家のようにリラックスして過ごしてくれます」

現在は、コーヒースタンドや文化イベントなど、地元に密着した活動をする森下さん。

「今後は地元の方に気兼ねなく利用してもらえるような、共有の場を作れたら。いつか、自分のスタジオから生まれるものやことが、コミュニティや地域に循環して、さらに暮らしやすい地域になっていくようなことができたらいいなと思っています」

森下さんが暮らす笠間は、陶芸の産地。「多くの作家さんが作陶されていて、陶芸が生活の中に浸透しています。器だけでなく、ぐい呑みを集めるのも好きで、ひとつひとつ愛でながら、作家さんの顔を浮かべつつ飲むお酒は格別においしいです」

栃木県益子町の造形作家、KINTAさんに作ってもらったドアがつけられた玄関。

家に入ってすぐのところにある手洗い場。「お客さんにも気兼ねなく使っていただけるように、玄関近くに設けました。洗面台は希望のサイズに、職人の方に研ぎ出しで製作してもらいました」

家の中には薪ストーブが。「ストーブはイエルカ・ワインさん作のもの。笠間の冬は寒いですが、この一台で家中が温まり、とても過ごしやすいです。オーブンが付いているので、色々なものを焼いたり、煮たりと大活躍してくれます」

キッチンは家の中心に。「オープンキッチンなので、家族や友人と会話しながら料理ができ、食材を持参してキッチンに立つ友人も多く、みんなに使ってもらえるところが気に入っています」

リビングの中心にある大きなダイニングテーブル。「ベルギーのアンティークで長さが3メートルあります。とても大きなテーブルなので、大人数の来客の際にもみんなで同じ食卓を囲むことができます。わが家を象徴するようなテーブルです」

家のいろいろな場所に、知り合いの作家さんによる作品を飾って。「この作品は、今は亡き恩師のリトグラフ作品。大切にしています。家の壁は漆喰なので、美術作品を飾るとしっとりなじみます」

森下さんの幅広い仕事のひとつが、看板制作。「支持体には古材を使い、エナメル塗料でペイントしています。古材はストックしてありますが、依頼主の方が持ちこまれることもあります」

キッチン横には気に入っている小物や、子どもたちが日々描く、何気ないアートワークを飾って楽しんでいるそう。

コーヒースタンドでも使っているエアロプレスで、毎朝コーヒーを淹れて。「これがないと1日が始まりません」

朝に食べるサラダが大好きだという森下さん。「子どもたちを送り出し、慌ただしさが落ち着いた後に食べます。写真はこごみとモッツアレラチーズに、ホワイトバルサミコ、オリーブオイル、岩塩、黒胡椒を振りかけただけのシンプルサラダ。春にはフキノトウやこごみなど、季節ならではの味覚が家の周りで採れ、味わうことができます」

鍋類は気づいたら、鉄のものばかりに。「特に鋳造の南部鉄器のフライパンが好きです。いろいろなサイズがあるので用途に合わせて使い分けています」

玄関には趣味で集めたという、神様コレクションを並べて。「まるで家を守っていただいてるようで、気に入っています」

空の表情を眺めながら、犬の散歩をするのが日課。「考え事をしたり、大好きなラジオや音楽を聴いたり、野鳥や草花を観察しながら、季節の移ろいを感じて散歩するのがとても気持ちよい。いい気分転換になっていて、私にとってはなくてはならない時間です」

森下さんが運営しているコーヒースタンド「naabe(ナーヴ)」。「笠間稲荷神社の目の前にあります。もともと飲食店だった場所が長らく使われておらず、扉も閉まりっきりで暗い場所でしたが、改装してコーヒースタンドを2年前から始めました」

店の看板や案内は、すべて森下さんがペイント。

店内の様子。「笠間の陶芸作家さんのマグカップを陳列して、選んだお好みのコップで、コーヒーを飲むことができます。お気に入りが見つかったら、取り扱いのある近隣のギャラリーさんをご紹介しています」

秋に「かさまの菊まつり」が開催される笠間市。「一昨年から、同時期にmum mum(マムマム)という文化イベントを始めました。ワークショップやライブ、マーケット、紙芝居、展覧会など、さまざまな企画をしています」

profile

森下豊子/もりしたとよこ

東京都出身。2017年に家族で茨城県笠間市に移住。イラスト、デザイン、看板描き、動画などの仕事をしつつ、2021年より笠間稲荷神社前にコーヒースタンド「naabe(ナーヴ)」をはじめる。文化イベント「mum mum(マムマム)」を2022年よりスタートし、企画・運営・ディレクションを手がける。家族は夫、長女、長男、次女とMix犬5才。

naabe
http://www.instagram.com/n_a_a_b_e_
mum mum
http://www.mummum-fun.com

森下さんがバトンを渡すのは、ジュエリーブランド「Ryui」のデザイナー平 結さん。「平さんは20年来の友人。家族ぐるみで仲がよく、定期的に泊まりがけで遊びにきてくれます。互いに拠点を移し、家を建てるなど共通点も多く、仕事にプライベートにと近況報告をし合う仲間です。ジュエリーデザイナーの平さんは、生活にもその審美眼が通っていて、身につけるものや生活スタイルなど参考になることばかりです」と森下さん。平さんの暮らしは、5月中旬に公開予定です。どうぞお楽しみに。

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