コラムニスト・吉田潮さんによるセレクト。あの懐かしのテレビドラマの名セリフを味わいましょう!
かっこよさしたたり落ちる言葉から、潔さや寛容で包まれる言葉、正しい考えに胸がすく言葉。男たちのスタンスも、社会の様相や娯楽の役割も変わってかっこいい言葉も変容して......。吉田潮さんによるセレクトとイラストであの人たちのせりふを楽しんで。
お話を伺った方
吉田 潮/よしだ・うしお
コラムニスト・イラストレーター
1972年生まれ。2001年からフリーとなり2010年から『週刊新潮』にてドラマを中心としたテレビ評論コラム「TVふうーん録」を執筆。著書に『くさらない「イケメン」図鑑』ほかがある。
ヒーロー像を一手に担わず寛容や誠意を表現するのが今らしい。
日本のドラマは毎シーズンほぼ網羅して観て、いいせりふや場面はメモをしています。かっこいい言葉を振り返ると、70年代後半の『新・座頭市』の豪放磊落(ごうほうらいらく)、型破りな勝新太郎の殺し文句や80年代、大映ドラマでの松村雄基の笑えるくらい壮大で気障な告白のせりふも思い浮かびましたが......。ドラマも世につれかなり変貌、正義の味方なしでも話が成立し、さまざまな価値観の変化が進んでかっこよさの概念も様変わりしたと感じます。
そんななか、2000年の『やまとなでしこ』で、鮮魚店店主の堤真一が虚勢を張りがちの松嶋菜々子に告白した言葉はひとつのエポックメイク。 90年代ドラマの「僕は死にません」とはまた違い、女性から見ても納得いく形で誠実な男性像が表現されました。時代もドラマもそのあたりで切り替わった気がしますね。以降は男性が弱さや本音をさらけ出しつつ寛容や理解、器を示す真摯な言葉に多くの人がかっこよさを感じるようになったと思います。
女優のせりふのほうが男気があることも多い、と思うこともしばしば。男女のスタンスもおおいに変化しています。男たちがすべてを担って多くを語らなかった世から進んで、今。多様になってもいるかっこいい言葉を、3つのタイプでピックアップしてみます。
僕はもう逃げません
あなたが好きです
たとえ明日あなたの気が変わったとしても
『やまとなでしこ』
松嶋菜々子扮する玉の輿狙いのCA桜子は合コンで出自を偽り欧介(堤真一)と出会う。すれ違いと交流の末、ナイトのようになれども煮え切らなかった欧介は傲慢にしか振る舞えない彼女を受け止め思いをまっすぐ伝える。
中園ミホ脚本(2000年 フジテレビ系 最終話)
弱さもさらけ出しつつきっぱりと愛を宣言。
堤真一のほか『虎に翼』の岡田将生、『カルテット』の松田龍平と圧倒的にアドバンテージは女性側にある形勢で、渾身の自分を出す言葉にほれぼれ。「昭和的な『俺に黙ってついて来い』というのとは全く違って、自分の弱さを受け入れ表明でき、相手への強く切ない思いや配慮を言葉にするのがかっこいいとされるようになっています。松田龍平は他のドラマでもシャイに見えて時を選ぶと核心をついた言葉を出すことが多いと感じますね。してやられる」
なりたい自分とかけ離れた不真面目でだらしがない愛だとしても
僕は佐田さんと線からはみ出て蓋を外して溝を埋めたい
『虎に翼』
伊藤沙莉と岡田将生は弁護士同士、戦争で大切な人を失ったもの同士、静かに惹かれあう。岡田は立場と心情を理解し、でも自分を曲げてでも愛していきたいときっぱり伝える。
吉田恵里香脚本(2024年 NHK連続テレビ小説 95話)
Comment
「思いが溢れすぎ。真面目な告白でした」
あなたといると2つの気持ちが混ざります
楽しいは切ない 嬉しいは寂しい 優しいは冷たい 愛おしいは虚しい…
愛おしくて愛おしくて虚しくなります
『カルテット』
四角関係を形成する男女2名ずつの物語。行方不明の夫をいまだに思っている松たか子に対し松田龍平が恋心を吐露する。手を離そうとしない。
坂元裕二脚本(2017~18年 TBS系 4話)
Comment
「ナチュラルで自分を大きく見せないのもかっこいい。思いのままの言葉は詩的です」
いぶし銀な人が人の道を語る軽妙。
普通に生きられない中村倫也に珈琲のおいしい淹れ方を伝授しながらちょっとした加減で珈琲も人生も変わると言う光石研。関西弁の照れかくしの中にまっとうな道を教える近藤正臣。2人の言葉に吉田さんは注目。
「単なる年長者が正しく、行儀よくと諭すというのとは違って、寛容で経験豊富な大人ならではの流儀を披露するように言葉をかけるとき、かっこよさが弾けます。相手も素直に言葉を受け取れる......テレビにも日常にもほしい瞬間です」
あんたに必要なのは自分を大切にすることだ
自分を大切にできないと他の人も大切にできない
『珈琲いかがでしょう』
反社の世界に身をおく主人公・中村倫也の前に現れた伝説のホームレス、たこさん(光石研)。珈琲を淹れるのは人を慈しむのと同じだと語り人生の転換までさせてしまう。
荻上直子脚本(2021年 テレビ東京系 6話)
Comment
「踏み出す一歩を与える言葉は価値が高い!」
人の道っちゅうのは外れんためにあるもんや
けどこれ外して苦しむためにもあるんや
外れても踏みとどまっても人の道や
『カーネーション』
綾野剛はヒロイン(尾野真千子)を気遣い、身を引こうとするが、ご隠居さん的な近藤正臣の言葉に救われる。
渡辺あや脚本(2011~12年 NHK連続テレビ小説 93話)
Comment
「かっこいいことを言いながら続けて『五七五になっているやないか』と自分で突っ込むのもいい」
慰めのひとことはやさしくて筋が通る。
「傷ついたり悩んだりしている人にかけるべき言葉は難しいものですが、配慮や敬意を言語化できるかっこよさは愛されます。優しいのに正義感のある鈴鹿央士、理科系で理屈っぽいけれど、人の話に耳を傾ける坂口健太郎の言葉にはかっこよさがあふれます」
意外性も重要で鈴鹿央士はあたりがソフトな分、強い言葉がより頼もしくなり、医師役の坂口健太郎も御託を並べがちだが相手を見守る力は高い。かっこいいぞ俺はとは迫ってきません。
「やればできる」ってやらせるための呪文だよ
”期待”と”圧力”は違うよ
『silent』
青羽(川口春奈)は職場でハラスメント、いじめを受けるも求められていると主張。
生方美久脚本(2022年 フジテレビ系 3話)
Comment
「鈴鹿央士は冷静な助言に続けて『俺ね、人を殴ったことないけれど青羽の職場にいる挨拶するやつは殴っちゃうかも』と。偉い!」
さっぱりわからないので大変ふがいないのですが
僕からは建設的な回答はなにひとつできません
ただ回答できない分聞くことはできます
何かありましたか?
『おかえりモネ』
空気は読めないのにことの本質を見極める医師・菅波(坂口健太郎)の百音(清原果耶)への電話での発言。
安達奈緒子脚本(2021年 NHK連続テレビ小説 38話)
Comment
「見栄をはらず傾聴ができるのはかっこいい。菅波語録として彼のせりふが人気だったのも納得」
『クウネル』2026年7月号掲載
イラスト/吉田 潮、取材・文/原 千香子
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『クウネル』NO.139掲載
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