俳優・坂井真紀さんおすすめフランス映画3選。人そのものの多面性を見せてくれるのがフランス映画

夏の終わりのアンニュイな時期。夜更かしして、フランス映画を観ませんか?フランス映画には、恋、おしゃれ、アート、濃密な人間関係…人生で大事なことが全部が詰まっている。目利き10人におすすめのフランス映画について聞きました。

今回は若き日からフランス映画を愛してきた俳優の坂井真紀さん。好きな作品の中から子どもを主人公とする3本を。子どもの視点を通して大人の社会も浮き彫りにします。

観終わって子どもたちの未来を想像することも映画の楽しみ。

10代、20代のころから、フランス映画が一番好きで、フランス映画ばかりを観ていたという俳優の坂井真紀さん。高校生時代はリセエンヌの生活をいきいきと紹介していた雑誌『オリーブ』のファンでもあった坂井さん、パリジェンヌへの憧れもあったそう。レオス・カラックスの『汚れた血』や『ポンヌフの恋人』、エリック・ロメールの『海辺のポーリーヌ』、ジャン゠リュック・ゴダール作品などなど、今でも大好きなフランス映画です。

そんな愛するフランス映画リストの中でも子どもを描いた作品にも心惹かれてきました。

「子どもたちのピュアな視点、かわいくて自然な表情を追っているなかで、大人も含めた社会のことが映ってきます。そういうところに惹かれます。素人の子役が出演していることも多いと思いますが、演技がナチュラルで、スタッフがどうやってこういう表情を引き出しているんだろう、と俳優としても気になります」 『死刑台のエレベーター』『地下鉄のザジ』などで知られる名匠、ルイ・マルが第二次世界大戦中に在籍していたキリスト教の寄宿学校で経験した戦争のむごい現実。

1960年代のフランスの片田舎で起こる対立する隣村同士の少年たちの〝ボタン戦争〟。そして自らの性に違和感を抱き、女の子になりたいトランスジェンダーの子どもとその家族の大きな葛藤。子どもを主人公にしながら、彼らを巡る大人の生き方や人生観も描く作品です。

「人間にはいろいろな側面がありますよね。フランス映画はそういう、人そのものの多面性を見せてくれると思うのです。結末を決めつけないんですよね。だから観終わったあと、この子どもたちはこれからどうなっていくんだろう、そんなことを10通りも20通りも、ああだこうだと考えるのが楽しい。それが映画館を出たあとの幸せな時間です」

cinema1/『さよなら子供たち』

1944年、ドイツ支配下のフランス。主人公・ジュリアンの学ぶ寄宿学校に3人の転校生がやってくる。ジュリアンはそのうちの一人、ジャンと親しくなるが、ジャンは学校がかくまっているユダヤ人の少年だった。ルイ・マル監督の自伝的な作品で、「戦争の悲惨さをこんなふうに伝える形もあるんだと衝撃を受けました。監督が、いつか映画にしたいと思っていた作品だそうです」と坂井さん。ガスパール・マネス、ラファエル・フェジトが主演。1987年製作。Photo: aflo

cinema2/『わんぱく戦争』

「子どもたちが本当にかわいくて楽しいんですけれど、やっていることは大人みたいで、皮肉にも思えます。舞台となっている60年代のフランスの田舎町の風俗を観られるのも興味深いです。彼らの着ている洋服がかわいくて一時はまって、フランスの子どもファッションを取り入れていました」。隣村の2組の少年グループが対立して、お互いの服のボタンや靴ひも狩りに熱狂する。ほとんどの子どもが演技未経験なのだとか。監督、イヴ・ロベール。1962年制作。Photo: aflo

cinema3/『ぼくのバラ色の人生』

7歳の少年、リュドヴィックの夢は「女の子になること」。スカートをはいて、着せ替え人形と遊び、将来は好きな人と結婚したい。そんな少年の願いに父母や兄弟、近隣の人々はどう向かい合うのか。「トランスジェンダーがテーマですが、家族の物語であるところに惹かれました」。1998年にゴールデングローブ賞最優秀外国語映画賞を受賞。監督、アラン・ベルリネール、主演はミシェル・ラロック、ジョルジュ・デュ・フレネ。1997年制作。Photo: aflo

すすめてくれた人

坂井真紀/さかいまき

俳優。母役の『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』がNHKにて放送中。出演する映画『マンガ家、堀マモル』が8月に、9月には『あの人が消えた』が公開予定。

『クウネル』2024年9月号掲載 取材・文/船山直子、原 千香子

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