【石川三千花さん×川邉サチコさん】映画はファッションのお手本!ふたりのセンスを刺激した映画とは?【後編】
登場人物のキャラクターづくりに重要な衣装や着こなしも、映画の注目ポイント!名作から新作まで、石川三千花さん、川邉サチコさんが推薦するファッションも見どころの映画とは?石川三千花さんのイラストも交えて後編をお届け!
PROFILE
川邉サチコ/かわべさちこ
トータルビューティークリエーター。トップメゾンのショーや広告などのヘア&メイクアーティストとして、第一線で活躍し、現在はファッションや美のアドバイスを行う「KAWABE LAB」主宰。
石川三千花/いしかわみちか
イラストレーター・エッセイスト。映画やファッションについて独自の視点で切り取ったイラストやエッセイが人気。今、蓼科の山荘をフルリノベ中で、「久しぶりにインテリアに燃えている」そう。
ファッションを見るだけで価値があるおしゃれ三人衆
おしゃれな映画も最近は少なくなったように思うけれど、今見るべき映画や役者、石川さんのおすすめを伺いたいです。
私、監督は「おしゃれな映画だったら、この女優をあてたい」って、絶対思っている気がするんです。その筆頭がティルダ・スウィントンとケイト・ブランシェット。この二人は、どんな映画でもおしゃれ、しかも見事なまでに着こなす。特にティルダは『ヒューマン・ボイス』なんて、もうヤバイくらいにおしゃれ番長なんです。
彼女も背が高そうね。
そうなんです。180センチはある長身で何でも着こなしてしまう。『ヒューマン・ボイス』では、全身ワントーンのコーディネートに釘付けです。殺しのための斧を買いに行くのに、ブルー1色のインナーとスーツ。真っ赤なニットのトップスとパンツに合わせた豹柄のパンプス、これ、つま先だけが赤いの。思わず「ワントーン・コーディネートはコーデネート」とシャレのひとつも言いたくなるほど(笑)。ほとんどがバレンシアガやドリス・ヴァン・ノッテンなどのハイブランドで、まさにおしゃれ上級者の見本のような着こなしっぷりです。
独特の雰囲気があるわね。
そう、ちょっとアンドロジナス的で彫刻っぽい。『胸騒ぎのシチリア』でもオートクチュールを着こなしていて、話はどうってことないんだけれど、ティルダのファッションを見るだけでも価値があります。
幸せになれるわね。
もう一人、ケイト・ブランシェットもシネマモードを語るうえで外せない役者です。『リプリー』、『キャロル』、『ナイトメア・アリー』、『TAR/ター』……どの映画もすべて役柄に寄せて、しかもファッショナブル。『アビエイター』ではキャサリーン・ヘップバーンを演じていますが、あの時代には珍しかったメンズライクなファッションがすごくカッコよかった。大人の魅力でさすがです。
二人とも気になりますね。若手だと誰かしら。
アニャ・テイラー=ジョイをぜひ。目が離れていて一度見たら忘れられないおもしろい顔なんですけれど、それがファッションと妙に相性がいいんですよ。
ファニー・フェイスね。決して美人じゃないけれど魅力のある顔。そういえば『クイーンズ・ギャンビット』もはまり役だったわよね。確かにおしゃれだった。
パーフェクトな美人よりずっとインパクトがあって、忘れられない印象を残す顔ですよね。ずる賢くもイノセントにもなれる。役者としてもおもしろいので注目しています。とにかく長い首から鎖骨のラインがものすごくきれいなので、細いストラップのスリップドレスが抜群によく似合うんです。『ザ・メニュー』では、革ジャンを脱ぐとスリップドレス。これは男女とも魅了される殺しのドレスだわ、と思いました。60年代のロンドンを舞台にした『ラストナイト・イン・ソーホー』では、彼女のスタイルでないとなかなか着こなせないような当時のファッションを見ることができます。
アニャ、興味あります。
だけどティルダもケイトもアニャも見る分にはきれいだけれど、自分たちが真似できるレベルではない。
『ヒューマン・ボイス』
ペドロ・アルモドバル監督がジャン・コクトーの戯曲を映画化。全編ティルダ・スウィントンのモノローグで展開。「30分ほどの作品だけど、ティルダは6回お召し替え。そのおしゃれ番長ぶりは必見」(石川さん)。2022年公開。
U-NEXTで配信中 © El Deseo D.A.
我が道をゆく女優のおしゃれテクが着こなしのヒントに
刺激をくれて、自分たちのおしゃれにも取り入れられそうとなると?
ダイアン・キートンの着こなしは、クウネル世代にも参考になるかもしれないですね。老い隠しのテク満載です。たとえばベレー帽を目深にかぶって眼鏡をかけるとか、首元はたとえパジャマでも第一ボタンまで留めて首のシワ隠しは死守するとか。ウエストには太いベルトをして脚長効果を狙う。だけど自分のスタイルが確立しているので、何を着てもダイアン流。好きな人にはいいけれど、ちょっと頑なすぎる気もしますね。
頑張りすぎると、かえって味がなくなるわね。見る方も疲れちゃう。
そうなんです。でも『ロンドン、人生はじめます』では、ベレー帽をかぶってなかったり、バサッとしたシルエットのツイードのコートを着たり。絶対ベルトをしたかっただろうにしていないときもある。その妥協の産物みたいな着こなしが結構いいんです。あとは『また、あなたとブッククラブで』もおすすめ。4人のおしゃれシニアが出ていて、体型も好みもわかりやすくさまざま。自分がどのタイプなのか参考にしながら見るのも楽しいと思います。
高級ブランドで固めるとか、やけにフェミニンだとか?
そう。ダイアンは当然ながらカジュアル派。ボーダーのシャツをパンツにインして着ているのには感心しました。そのほうがバランスがいいとわかっている。ぽっこり腹を隠さずエライなと。それから私ね、日本のシニアって、なぜやさしげな色しか着ないんだろうって、不満でならないんです。
ベージュとか。
曖昧な藤色とか。目立ちたくないから?ぜひ『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』のジェイミー・リー・カーティスを真似してもらいたい。ヴィヴィッドなワントーンの服に白髪と眼鏡。どれだけスタイリッシュか。ヴィヴィッドな色、日本人でも絶対似合うと想うんですよね。
本当にね。こうしていろいろ伺っていると、久しぶりに映画館に出かけたくなりました。映画って2時間で楽しめるうえに、ファッションのスパイスが効いていたら、あとで「あのドレスが……」なんて感想を語り合うのもおもしろいわよね。
はい、ぜひ!
『ナイブズ・アウト/名探偵と刀の館の秘密』場面
ミステリーの女王、アガサ・クリスティに捧げられた、スリルと謎解き満載の極上エンターテインメント。名探偵をダニエル・クレイグ、曲者揃いの富豪一家の長女をジェイミー・リー・カーティスが演じる。2020年公開。
Blu-ray, DVD, デジタル好評リリース中 発売元:バップ Knives Out © 2019 Lions Gate Films Inc. and MRC II Distribution Company LP. Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
前編も読む
『クウネル』1月号掲載 写真/目黒智子、取材・文/河合映江、イラスト/石川三千花、編集/黒澤弥生
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『クウネル』No.124掲載
あの人が、薦めてくれた映画
- 発売日 : 2023年11月20日
- 価格 : 980円 (税込)