若き日に心を震わせられた詩の一節。大人になってより深まった書き手の心情への共感。本を通じた敬愛すべき女性との出会いは心の宝物です。6人の女性たちに、それぞれの先達への思いを聞きました。
安野ともこ/やすのともこ
デザイナー、スタイリスト
ジュエリーブランド『CASUCA』、セレクトショップ『安野商店』を運営。スタイリストとしても活躍し、11月渋谷・シアターコクーンで開幕の『ツダマンの世界』の衣裳を担当。
Instagram: yasunotomoko
安野ともこさんが憧れる、樹木希林の包容力
ともかく唯一無二の存在。4年前に亡くなったことはとっても残念だけれど、樹木さんの存在感はいらっしゃらなくなっても大きいです」安野ともこさんにとって、樹木希林さんは忘れられない「憧れ中の憧れ」。女優としての存在感はもちろんのこと、内田裕也さんとの規格外の結婚生活や自立した生き方に尊敬の気持ちを持ち続けています。安野さんがすすめてくれた本書は、樹木さんと一人娘の内田也哉子さんの共著。
不登校など学校のシステムになじまない子どもたちの自殺率が夏休み明けの9月に大きくなることに心を痛めていた樹木さん。死の直前に母のその気持ちを知ることになり、子どもの置かれた状況に関心を持つようになった内田さんが、不登校経験者やセラピストと語り合い、子どもや家族、社会が抱える問題を考えた話題の1冊です。
「私の娘もある時期、学校に行かなくなったことがありました。深刻なものではなかったけれど、私は行きたくないなら行かなくてもいいと思っていました。学校に行かない人はたくさんいるし、家庭でも教育はできるって」システムに乗らなくても人はどうにか生きていける。
苦しい経験があっても「人間として生まれることはきわめて稀なことだ」から生き続けなきゃもったいない。そんな樹木さんのメッセージがダイレクトに伝わってきます。「この本を読むと、これほどの包容力で生きていけば何も怖くないって思えてくるんです」
『クウネル』2023年1月号掲載
写真/久々江満(本)、取材・文/石毛幸子、丸山貴未子