ほぼ半世紀に及ぶ第一線でのキャリアを持ちながら、軽やかに、楽しく70代の日々を送る矢野トシコさん。その元気の秘訣は?
矢野トシコ/やのとしこ
1950年、栃木県生まれ。広告、雑誌を中心にヘアメイクとして活躍。 前田美波里さんなどトップ女優、アーティストのヘアメイクを担当。 30年以上、茶道にも親しみ、自宅 に茶室を設けるほど。美しい着物コレクションも。
目指すは「転ばないおばさん」
すっきりと背筋の伸びた長身、はきはきと明快な語り口。長年にわたって、ヘアメイクアップアーティストとして、多くの女優さんやクリエイターの信頼を得てきた矢野トシコさんの目標は「転ばないおばさん」。
「健康であることが精神をポジティブにしてくれるでしょ。おしゃれするにも、趣味のお茶を楽しむにしても、元気であればこそだから」
そのためには一年一度の人間ドック、月一の歯のクリーニングに、毎朝のNHKのテレビ体操やヨガレッスンと、セルフケアを欠かしません。
「パズルのような超過密スケジュール」 だった若いころには、たくさん壁にぶつかって、ストレスで精神的に追い詰められたこともありました。そんなときも、体を動かし、気持ちを切り替えて半世紀にも及ぶキャリアを築いてきたのです。
ときめくことは大事!
そんな矢野さんがコロナ禍で家にこもっていたときにはまったのは、米津玄師の音楽!もともと音楽好きで、いろいろなジャンルの音を楽しんできましたが、いまは断然、米津玄師。
「必死にデジタルについていって、米津さんのライブをネットで申し込んだりしているの。同世代の知人からは、 矢野さん、よくそんな面倒なことするねー、とあきれられるけど、ときめくことは大事よね。白髪は帽子で適当に隠して、若い人に交じってライブを楽しむんです」
自然に囲まれた理想の暮らし
矢野さんが長いこと目論んでいるのは、長く暮らす東京から神奈川県の葉 山への移住だそう。若いときから葉山にはさんざん通って友人も多く、仕事をリタイアして移住した知人もたくさんいる場所。土地勘もあるし、なにしろ海が間近にある環境が好ましい。
狭い道が多い土地柄に合わせて、車も小回りのきくフィアットに買い替え。葉山の不動産情報を毎日チェックして、手ごろな家を探しているのだとか。
三浦野菜やおいしい魚を料理して、仲のいい友達と海に沈む夕日を眺めなが ら、いつまでもおしゃべり、それが矢野トシコさんの理想の葉山暮らしのイメージ。
「海があって空があって、水平線が見えて、その美しさを感じることができれば、何歳になったって楽しいはず。私の老後、きっと退屈しないわよ」
写真/小出和弘 取材・文/船山直子 再編集/久保田千晴