閑静な住宅地の一角にたたずむ小さなかごのギャラリー。 ずっと主婦として生きてきた女性が7年前に始動した空間です。ギャラリーKEIAN主宰・堀 惠栄子さんにお話を伺いました。
ギャラリーKEIAN主宰・堀 惠栄子さん
小さなかごとの豊かな出合いが転機へつながったのかもしれません。
ギャラリーを開いたのは59歳になる直前、亡くなった母親が遺した多くの着物を展示し、見てもらいたいという気持ちからでした。着物とともに、好きで集めてきた自身のかごバッグなども併せて公開しました。
「インスタグラムなどSNSで小さく告知しただけだったのに、予想を超えたお客さまがいらっしゃって。かごは展示だけのつもりだったけれど、これは売り物ですか?買いたいけれど、どうすればいい?と多くの方から聞か れて。みなさんがこれほどかごがお好きとは想像もしていなかったです」
当時の思わぬ反響をギャラリー主宰の堀惠栄子さんは振り返ります。 年齢的なこともあるし、2年くらい運営したら閉めようと思っていましたが、そうしたお客の求めに応じ、日本各地の信頼するかご作りの作家や職人に仕事を依頼。丁寧な手仕事によって生まれた美しい作品を紹介し続けてきました。
数年前に堀さんが企画したのは、『ちいさな私×ちいさな籠 my first basket』と名付けた展示。子どもたちに良質な本物を使ってほしいという 意図のもと、大人用のかごをサイズダウンしたものを各種、紹介しました。
「これは実は私が小学1年生くらいのときに自分で買ったものなんです」
上の写真で堀さんが手にしているあめ色の小ぶりのかご。一人っ子だった 堀さんは、毎夏を祖父母の軽井沢の別荘で過ごしました。旧軽井沢の商店街にあった民芸の店で、お小遣いで買ったかごは、しっかりした作りで意外な丈夫さ。多くのかごを使ってきたけれど、これは軽井沢での思い出と共に堀さんの身近にずっとあり続けたそう。
この愛用品と同じ大きさ、デザインで今回の展示のために、籐の作家に作ってもらったのが、右のかごです。このほかにも、大人用をそのまま小さく作った、愛らしいものが並びます。
「いいものを長く使っていただきたい、 というのが私の気持ち。人生の最初に出合うかごも、そうであってほしいなと思っているのです」
30代からずっと主婦だった人に訪れた思わぬ転機。それを支え続けてきた のは、小さなかごとの豊かな出合いの記憶だったのかもしれません。
『ku:nel』2021年11月号掲載
写真/森山祐子、取材・文/船山直子