コンビニ商品の象徴としておいしさと簡便さアップを果たしてきた、おにぎり。その世界を眺めつつ、よりおいしく味わう方法を作家・料理家の樋口直哉さんが考察します。
コンビニのおにぎりは知らないうちに進化している。
おにぎりの形はなぜ三角? 民俗学者の柳田国男は「心臓の形を模した」というユニークな説を述べています。言うまでもなく心臓は人間にとって一番大事な臓器で、当時は魂が宿っていると考えられていました。それだけおにぎりは大切なものだった……ということでしょう。この説の信憑性はさておき、おにぎりが三角形になったのはコンビニエンスストアのおにぎりの影響とされます。それまでおにぎりの形には地域差がありましたが、三角に統一されたわけです。吉岡秀子『コンビニおいしい進化史』(平凡社新書)によると「手巻きおにぎり」が登場したのは1978年 。
シーチキンマヨネーズのヒットによって市民権を獲得し、 年代に入ると種類が拡大、そして2000年代には本格化の波が到来します。 変わったのは具の入れ方です。 年代は具をごはんの上にのせるだけでしたが、 年代に入ると小さなくぼみに具を入れる方式に。 年代には三角形の辺に沿って、穴を開けて、そこに具を詰める方法が採用された。これによ って具の量が多くなります。そして、 2000年代になると「具を上下から ごはんでサンドする」方式が定番になり、2000年代半ばから 年代にかけてはふんわり握ったごはんの中央に穴を開け、具が真ん中にくるように包むーつまり、人がつくる方法とまったく同じー方式が登場しました。
The Conveni Onigiri
鮭おにぎりコレクション
※各社、標準価格を掲載しています。 商品には変更が加わったり、予告なく販売終了になることがあります。 地域により仕様が違う場合や、地域や店舗により取り扱いがない場合があります。
今回、ずらりとコンビニおにぎりを並べてみると、三角から丸、あるいはサンド方式まで、様々な展開がされていることに気づきました。もちろん、 フィルムは工夫され、昔と違って一工程ではずせるようになっていたり、見えないところで進化しているわけですが、絶え間なく新商品が投入され、棚の景色も目まぐるしく変わっているように見えて、全体としては古いも のと新しいものが仲良く並んでいる。 これは日本の食生活の有り様、そのものでしょう。
ところで、コンビニおにぎり。食べる前に温めますか? 以前は温めて食べるか否かは地域差がありました。具材が多様化した現在では、中身によって温めたり、温めなかったりがありますが、全般的には温めて食べたほうが おいしいようです。作っている人の気 持ちが伝わる気がします。 「ここまでする必要があるのか」というほどの工夫は日本人に とってやはりおにぎりが「大事なもの」という証拠。進化し続けるコンビニおにぎりは食材の生産者から製造工場に至るまでの努力の結晶です。
必ず 並んでいる定番、 各タイプの「鮭」を食べてみる。
珍しい具や味のおにぎりは一度人気が出ても結局は「梅」「鮭」「昆布」といった定番の具に戻ってくるよう。一口食べればなぜか懐かしい、今回はそんな鮭おにぎりを食べ比べました。
系統的には「鮭の身をほぐしたタイプ」と「焼いた切り身タイプ」に分かれ、あとは鮭に含まれる脂肪分で各社 の個性が出てきます。断面からわかる具材の量はそのまま味の印象に直結するよう。身も蓋もない結論ですが、価格と味は相関関係にあり、やはり高いものほど味が良かったです。
全体として気づいたのは「昔よりご飯がおいしくなっている」こと。特に直巻きタイプを食べたときにそう感じ ました。塩気も自然で、ふんわり感と 粘りを両立させ、口に入れると崩れる 感じがよく出ています。昔のコンビニ おにぎりは便利なだけという印象でし たが今は違います。知らないうちに、 進化していました。
樋口直哉/ひぐちなおや
服部栄養専門学校、フランス料理店などで料理修業をしたのち2005年作家デビュー。小誌の連載も人気。 近著に『最高のおにぎりの作り方』も。
『ku:nel』2021年7月号掲載
エッセイ 樋口直哉 / 写真 瀬尾直希 / 編集 原 千香子
●そのほか樋口さんの記事いろいろあります
◎【樋口直哉さんのキッチンツール/前編】値段ではなく、いいものかどうかで選ぶ。
◎【樋口直哉さんのキッチンツール/後編】使う気持ちも大切に、樋口さん流「ちょうどいい」道具達。