【大庭英子さん・68歳、ひとり暮らし。きょう何食べる?】vol.5・インタビュー〈後編〉「時短料理もいいけれど、時間をかけるからこそおいしい料理を楽しんで」

大庭英子さんの焼きそば

食材の持ち味を生かし、どこでも手に入れられる調味料を使ったレシピに定評がある料理家の大庭英子さん。その料理は思わず「おいしそう!」と口にしてしまうほど、どこかダイナミックなビジュアルで、実にそそられます。

長年、第一線で活躍され、数多くのレシピ本を出版されていますが、今年6月に新刊『68歳、ひとり暮らし。きょう何食べる?』を上梓されました。

長年の経験を基に提案するのは、ひとりごはんを愉しむための工夫やアイデアなど。

シリーズ最終回は大庭英子さんへのインタビュー後編をお届けします。


■料理の世界に進んだのは、ふとしたきっかけから。


ーー大庭さんが料理の世界に進むことになったきっかけを教えてください。ご出身は九州の福岡なのですね。

大庭さん(以下、大庭):そうです。18歳のとき、高校を卒業して進路をどうしようかと思っていた際、同郷の料理家・久松育子先生が東京でアシスタントを探していると知りました。私は4人兄弟の末っ子で、料理なんてろくにしたことがなかったんですが、久松先生を頼って上京したんです。

当時はテレビ番組や広告関係の仕事のアシスタントが多かったですね。料理撮影の仕事は段取りをがとても大事。そのときに学んだことはいまでも生かされています。

厳しいこともたくさんあったけれど、久松先生とも料理とも相性がよかったのでしょうね。10年ほどアシスタントを務めて、28か29歳のころに独立しました。

ーー独立後もお仕事は順調だったのでしょうか?

大庭: そうですね。ありがたいことに週刊誌や女性誌で料理の特集が組まれることが多く、雑誌の仕事を多くするようになりました。
それから40年ほど料理を続けています。まさかこんなに長く続けることになるとは思ってもいなかったですね。

ーー長年、第一線で活躍されている大庭さんですが、料理を作る際にとくに大事にしていることはなんですか?

大庭:家庭料理なので、誰でも手に入れられる材料や調味料で作ることは第一ですね。少ない種類の材料や調味料で素材の味を活かしたいとお話ししましたが、食材の持ち味を引き出して、よりおいしくしたいと思っています。

また、いい食材を手に入ることも大事。ただ、「いい食材=高価なもの」とは一概に言えません。金額だけではなく、鮮度やそのものの味を見極めることが大事ですね。

ーーなるほど。それで、撮影などで使う食材は必ずご自分で買いに行くということなんですね。

大庭:はい。アシスタントに頼んでも、あとから小言を言うことになりますから(笑)。お取り寄せや通信販売もめったにしませんね。食べるものは基本は自分の目で見て納得したものを選ぶことに決めています。

大庭英子さんのかご
キッチン近くの壁にはずらりとかごが並んでいる。風通しのよさを考えて壁収納にしているのだそう。

■手間をかけるところと、かけないところ。そのメリハリをつけて。


大庭:それから、世間的には時短時短で手軽な料理が求められることが多いけれど、私は歳を重ねたこともあり、時間をかけて作る料理も見直したいと思っています。
もちろん、サッと作る炒めものもいいけれど、「豚の角煮」など、じっくり時間をかけてこそおいしくできあがるものもありますね。

ーー豚の角煮は著書のなかでもレシピを紹介していましたね。ひと晩置いて、脂を取り除くというひと手間ですね。

大庭:そうです。それをすることで余分な脂がないのでくどくなく、さらに、味が染みやすく薄味に仕上げられます。比較的日持ちするので、多めに作ったり、おもてなしをしたりするときにもおすすめですよ。

大庭英子さんの豚の角煮
豚の角煮。『68歳、ひとり暮らし。きょう何食べる?』より。撮影/邑口京一郎

それから、書籍でも紹介している「筑前煮」は材料も比較的多く、それぞれ下ごしらえがあるので多少、手間に感じるかもしれません。でも、一緒くたに煮てしまうよりも素材に合った下ごしらえをしたほうが、ずっとおいしい。その手間は惜しんではいけないと思うんです。

週に何度もこういった手の込んだ料理を作るのは難しくても、ときどき時間をかけて料理することを楽しんでもらえたら嬉しいですね。
手間をかけるところと、かけないところ。そのメリハリをつけるといいんじゃないかなと思います。

大庭英子さんの焼きそば
ひとりの昼食は簡単にできて野菜も一緒に摂りやすい麺料理が多いのだそう。インタビューが終わり、昼食にと作ってくれた塩焼きそば。レモンをたっぷり絞って。

■ライフワークのジャム作り。季節に急かされながら楽しんでいます。


ーー時間をかけるといえば、保存食作り、とくにジャム作りがライフワークのひとつだそうですね。

大庭:そうなんです。ひとり暮らしということもあって作り置きおかずはあまり作らないけれど、ジャムや保存食は別。たくさん作って仕事のスタッフさんなど人にあげることが多いのですが、 無心でできるのがいいんです。

ーーいまの時期だと、どのようなジャムを作るのですか?

紅玉のジャムやルバーブですね。ルバーブは国産で栽培している農家さんを見つけて、頼んで送ってもらっています。

季節の移り変わりに追いかけられるようにやっていると、「面倒だなぁ」と思うことも正直あります。でも、果たしてこれがあと何回できるかな……と。続けることが自分の使命のひとつだと思ってやっていますね。

大庭英子さんのルバーブのジャム
濃いルビー色がきれいなルバーブの自家製ジャム。別室にはジャムなど保存食専用の冷蔵庫があるそう。

ーー素敵ですね。料理以外で続けていることなどはありますか?

大庭:最近、自宅で友人と一緒にヨガを始めました。ヨガの日は友人たちの分も含めてごはんを作るのが私の役目で、それも楽しんでいます。

ひとりごはんも誰かと一緒のごはんも、作る過程も食べることも楽しめたらいいですよね。
今回ご紹介したこの本から、そのヒントを見つけてもらえたら嬉しいです。


\絶賛発売中/

聞き手/結城 歩

SHARE

IDメンバー募集中

登録していただくと、登録者のみに届くメールマガジン、メンバーだけが応募できるプレゼントなどスペシャルな特典があります。
奮ってご登録ください。

IDメンバー登録 (無料)