【目利き書店員セレクション5冊】きのしたブックセンター・今村翔吾さんが選ぶ日本の良さに気付かされる時代小説

書籍『すぐわかる日本の伝統文様』表紙

新たな本に出合いたいけれど、何を選べばよいか分からない。そんな時は本のプロである書店員さんに聞いてみるのも手。直木賞作家から書店員歴40年以上のベテランまで、個性的な書店オーナー&書店員さんに「推しの本」を取材しました。

本が結ぶ縁や出会いを大切に直木賞作家が町の書店を継承

直木賞作家の今村翔吾さんが、廃業が危ぶまれた大阪・箕面市の書店『きのしたブックセンター』を受け継いだのは昨年11月のこと。
「当初は断る予定だったのですが、店舗を見学に行った時、小学二年生くらいの女の子がおばあちゃんと絵本を選んでいたんです。ここがなくなったら彼女にとっての『思い出の本屋』もなくなってしまう。それは悲しいなと思ったのがきっかけです」

今年1月の直木賞の受賞スピーチでは全国の書店にお礼参りをしたいと宣言。「まつり旅」と称し、約4ヵ月かけて車でまわった全国の書店は270箇所以上。原動力となったのは、地方の書店を盛り上げたいという思いです。「旅を通して撤退を余儀なくされている書店の現実を知る一方、書店の役割や必要性を再認識しました」

書籍『すぐわかる日本の伝統文様』表紙
すぐわかる日本の伝統文様』並木誠士
日本古来の伝統的な文様の入門書。「家紋など、海外でも注目されている日本のデザイン力を学べる一冊」。2,200円(東京美術)
書籍『さざなみの彼方』表紙
さざなみの彼方』佐藤 雫
1988年生まれの著者が描く、茶々と大野治長の物語 。「 若く才能ある作家の作品を追いかけるのも読書の楽しみ 」。 1,870円(集英社)
書籍『天の梯みをつくし料理帖』表紙
天の梯みをつくし料理帖』髙田 郁
大人気シリーズの完結版。「同じ女性として、時代を超えて共感できる部分があるのではないでしょうか」。682円(角川春樹事務所)
書籍『おんなの女房』表紙
おんなの女房』蝉谷めぐ実
女形の役者に嫁いだ妻と夫の成長を描く。「30歳と若い蝉谷さんが描く時代小説は、令和の感性が面白い」。1,815円(KADOKAWA)
書籍『幸村を討て』表紙
幸村を討て』今村翔吾
戦国最後の戦いを通じて親子、兄弟の関係を描く。「主題は家族。ふだん時代小説を読まない方にも」。2,200円(中央公論新社)
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本が大好きで小学校高学年頃から年間約150冊読んできたという今村さん。作家として多忙な今は読書量は減ったものの、これまでの読書歴で培った知識が貯金になっていると語ります。「読書を通して一度インプットした知識は消えることはなく、新たな本を読むことで化学反応が起き、さらなる気づきや学びへとつながります。


今回は時代小説を中心に選書しましたが、人間には千年、二千年と時代を超えて変わらないこともあれば失っていることもある。我々は日本人特有の良さや人間として大切なことを失っていないか。そんな気づきを得られるのが、時代小説の醍醐味だと思っています」

『クウネル』2023年1月号掲載

編集・文/吾妻枝里子

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