社会に目を向け、やわらかな筆致で次々と話題作を世に送り出す中島京子さんの選書のテーマは「異国に思いを馳せる」。異国といっても、欧米や近隣の国々ではなく、日本ではあまりよく知られていないウクライナ、ナイジェリア、レバノンの3か国を扱った本です。「どの国もよく知らないがゆえに、日本といえば〝フジヤマ、ゲイシャ〟の ような、ステレオタイプのイメージを持ちがちですが、現実は違うんだと気づかせてくれた3冊です」
中島京子/なかじまきょうこ
新刊の短編集『オリーブの実るころ』(講談社)、児童文学のエッセイ集『ワンダーランドに卒業はない』(世界思想社)も好評。
『ペンギンの憂鬱』
アンドレイ・クルコフ 訳/沼野恭子
ウクライナの小説『ペンギンの憂鬱』は戦争が起きて再読した1冊。
「初読のときは主人公が飼うペンギンのもたらすユーモラスな印象が強かったのですが、再読してこの国の哀しみや怖さをリアルに感じました。
いろいろな仕掛けも巧みで面白い小説」
『パープル・ハイビスカス』
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
訳/くぼたのぞみ
『パープル・ハイビスカス』はこれがデビュー作と思えない見事な筋運び。 「ありがちなイメージでは語れない、 ナイジェリアの複雑さの一端が、10代の女の子の目を通してみずみずしく繊細に描かれています。タイトルは珍しい色の花を示し〝あなたはあなたでいい〟というメッセージでもある。食べ物の描写もとても美味しそうです」
『ベイルート 961 時間(とそれに伴う321皿の料理)』
関口涼子
『ベイルート961時間』も料理を通し、新たな目でこの街を描きます。 「香り立つような料理がまず魅力的。
ベイルート=戦争という思い込みから解き放ちつつ、その深い傷跡も感じさせます。どの本も、完全な理解に至らなくても、その国について知ろうと話を聴き、本を読む時間を持つことが大切と教えてくれたように思います」
取材・文/丸山貴未子 再編集/久保田千晴