【わたしの三冊】家族だからこそ抱える葛藤や愛情に目を向ける

家族は一番身近にいて気心が許せる存在という人もいれば、愛情がうまく表せない、気持ちがつかめないと悩む人も少なくないはず。改めて家族について考えたくなる3冊です。

『兄の終い』で兄の死後の5日間を描いた村井理子さん。新刊『家族』では幸せになるはずだった自分の家族が、ある誤解がもとで壊れていったさまをありのままに綴りました。

「家族については、皆さん何かしら葛藤を抱えているのでは?」と村井さん。やはり家族への思いを率直に表した3冊を選んでくれました。

佐野洋子さんの『シズコさん』
『シズコさん』/佐野洋子「ズバズバやり合う母娘関係が飾らず書かれている。母親が老いた後わだかまりがとけるのも介護中の私にはよくわかる」。新潮文庫572円
青木さやかさんの『母』
『母』/青木さやか「同世代の彼女が娘の子育てにも手を抜かず頑張っている姿にも好感を持ちました」。自身の経験を赤裸々に綴った1冊。中央公論新書1,540円
『そうか、 もう君はいないのか』/城山三郎 経済小説の第一人者の没後発見された手記。若き日の出会いから病に倒れるまで。夫人に対する愛情が素直に示されている。 新潮文庫539円
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『シズコさん』は絵本作家の佐野洋子さんが母との葛藤を語った1冊です。

「リズムよく単刀直入に、お母さんをくさしまくっていますが、筆致に愛情があり、グイグイ読ませます」

『母』も完璧を望む母親との確執を軸に、過去をたどったエッセイ。

「本の中の青木さやかさんはきまじめで繊細。テレビのイメージとは違う一面を見て、かなりファンになりました。 母と娘の関係はむずかしく、佐野さんも青木さんも晩年にわだかまりがとけ、 死後に振り返って書くことでようやく自分の中で決着をつけた」

「寂しくもありますが、亡くなってからやっとわかることがあり、亡くならないと書けないこともあるんですね。私も父母と兄を亡くし『家族』を書くことで、距離を置いて考えられたし、悪いものは出し切った感じがしています」

一方『そうか、もう君はいないの か』は愛妻に先立たれた夫が在りし日を偲びます。

「残された夫の哀しみが胸に迫る。巻末の娘さんの手記がまたいいんです」 改めて家族について考えてみる、きっかけになる3冊です。

『クウネル』2022年7月号

取材・文/丸山貴未子

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