広瀬裕子さんが目指す「その人らしい美しさ」を体現する写真家・高木由利子さん。「生涯現役」を貫く姿勢もリスペクト。【素敵な大人たち】
揺るぎない信念、洗練の美意識、孤高の精神、慈しみの心……自分のスタイルを持つ素敵な大人たち。人生の先輩や、生き方のお手本など、各界で活躍する方々のそれぞれの視点から憧れの人をうかがいます。今回は、エッセイストの広瀬裕子さんが憧れる写真家・高木由利子さんについて。
語ってくれた人
広瀬裕子/ひろせ・ゆうこ
エッセイスト
1965年東京生まれ。暮らしを主なテーマに、書籍やWEBなどでの執筆のほか、空間や商品のディレクションを行う。近著は『50代からのグレイヘア』(PHP研究所)。〈クウネルWeb〉での連載「おとな、ひとりの愉しみ」も好評。
「年を重ねること」の希望となる素敵な先達。
深い森の中、朝晩は霧が立ち込め、紅葉と桜の木々に抱かれるようにして建つ家。世界を旅する写真家の高木由利子さんが、いまから約10年前、65歳のときに「木々に恋をして」、軽井沢の地を選び建てた家は、Y字型で木々に沿うよう三方向に伸びたユニークな形をしています。その家を紹介する動画をふとしたきっかけに観た、エッセイストの広瀬裕子さんは、家と主の静かで美しい佇まいに吸い込まれていきました。
「軽井沢という場所に私自身もずっと興味があり、以前は住もうと思って、具体的に動いていたほどなのです」
そんな気になる土地で、少し変わった間取りの家をひとりで生き生きと住みこなしている高木さん。そのライフスタイルに興味を持ったのが、憧れるきっかけになったといいます。
「私も含め大多数の人は、オーソドックスな四角い家を建てると思うんです。でも、高木さんのお宅は、窓が大きく湾曲していたり、壁や床が墨黒色だったり、やはり、アーティストならではの感性です。家はその人らしさが出るということを改めて感じました」
「森の家」を入り口に、高木さんの生き方にも刺激を受けた広瀬さん。若くても少しハードルが高い自然の中でのひとり暮らし、それを65歳で初挑戦するなんて! 健康で思うように動ける時間にも限りがあるのだから、仕事も暮らしあれこれも、積極的に取り組みたい。フットワークの軽い高木さんの姿に共鳴しました。60代以降、これからの時間は、どんどんとかけがえのないものになっていくはず、と言葉に力を込めます。
「年を重ねた先の時間の過ごし方は人それぞれ。『やっとのんびりできる』と人生のご褒美のようにゆったり暮らす方もいるでしょう。でも高木さんは、『人生は一生現役。健康である限り、死ぬまで写真を撮っていたい』と断言されています。私自身も常々そう考えていて、高木さんが同じ気持ちを抱かれていると知り嬉しくなりました。世界で活躍する女性として、仕事をされている方として、先駆者であり、尊敬できる存在です」
カメラのレンズを覗く高木由利子さん。デザイナーを経て、写真を独学で始め、写真家としては1990年代初頭から活動を続けている。美しいロングのシルバーヘアが印象的な佇まいをつくり出している。
@shinnosuke miyachi
高木由利子/たかぎ・ゆりこ 写真家
1951年東京生まれ。武蔵野美術大学にてグラフィックデザインを学んだ後、イギリスに渡る。フリーランスデザイナーとしてヨーロッパで活動した後、写真家に転身。10月8日(木)〜11月29日(日)まで、『高木由利子 写真展 chaoscosmos vol.3 -visible viscosity-』を開催。東京・表参道の「GYRE GALLERY」にて。
もうひとつ惹かれたのは、美しい白い髪。かなり長い髪を一本の三つ編みに結っている姿がとても印象的です。シルバーヘア歴3年目の広瀬さんにとっては、憧れの存在になりました。ナチュラルな髪色もしかり、年を重ねてできたシワもまた素敵。広瀬さんが目指している「その年代らしい、その人らしい美しさ」を体現しています。「目標としたくなる、こんなかっこいい大人がいる。後に続く私たちにとって、年を重ねることの希望になりますね」
写真家としての活動ももちろん注目しています。アジア、アフリカ、南米、中東など、世界各地の先住民族や地域の人々を自ら訪ね、彼らが日常的に着ている伝統的な衣装を撮影するプロジェクト。桜や鉱物、氷など自然界のものや現象を写すシリーズなど、撮影場所の香りや温度を感じ、人の鼓動が聞こえてきそうな五感が刺激される写真たちです。
かと思えば、クリスチャン・ディオールなどハイファッションの撮影を担い、仕事の幅の広さがなんとも鮮やか。「その場所・その瞬間の自然光」にこだわり、「光と風が服や人と調和する奇跡の瞬間」を捉える写真は、見る人の心のやわらかい部分を刺激します。
「作品とご本人が近く、生み出すものにその人自身が現れていると感じています」
さて、「素敵な大人」を考えるこの企画、広瀬さんが描く「素敵な大人像」とは?
「ピカピカとつくられたきれいさではなく、その人らしい、その年齢らしいきれいさや佇まいを持っていること、かな。そして、年をとるということは、成熟という表現にもなりますね。私の中での「成熟」は、これまでは見過ごすことができなかった、ちょっとした理不尽や違和感に寛容になれることかも?とこのごろは思うんです」
『クウネル』2026年11月号掲載
取材・文/鈴木麻子
SHARE
この記事の
プレミアムメンバー
広瀬裕子
東京、葉山、鎌倉、瀬戸内を経て、現在は東京在住。執筆の傍ら空間ディレクションにも携わる。著書に『60歳からあたらしい私』(扶桑社)、新刊『50代からのグレイヘア』(PHP研究所)。NHK文化センター青山教室:大人の学び ─ 学びから広がる暮らし ─で講師を務める。Instagram:@yukohirose19
『クウネル』NO.141掲載
どんな大人になりたいか?
- 発売日 : 2026年9月18日
- 価格 : 1,100円 (税込)