【小泉今日子さんインタビュー・後編】情熱を持ち続けることは、きっと満足しないこと
公開中の映画『海の沈黙』で、脚本家・倉本聰さんが描く人間ドラマのキーパーソンとなる、主人公の元恋人役を演じている小泉今日子さん。
作品を視聴して圧倒されたのは、主人公である本木雅弘さんが演じる孤高の天才画家が持ち続ける美への情熱。インタビュー前編では「美」について話を伺いましたが、小泉さんにとって「情熱」とは?
今に満足しないから、次がある。
「決めてしまわないことなのかな。自分ってこうだ。パッションってこうだ、芸術ってこうだ。って決めてしまうと、そこがもうゴールになっちゃって、その先を求めない気がするんです。私は今だに自分がどんな人間か分からないし、自分に満足したことがあまりない。だから次があるような気がしています。
本木さんなんて、あれだけの美しさとキャリアを持っているのに、私以上にそういう人間なんだなと感じます。若い時からそうだったけど、今回会ったらやっぱり変わらないんだなって微笑ましく思いました。そういう人が、やっぱりある種のエネルギーを持っている人なんでしょうね」
脚本家の倉本聰さんは今年89歳。本作では36年ぶりとなる映画脚本を手掛けています。
「倉本先生とは小樽で久しぶりにお会いしたんです。会う前まではお元気かしら?と思っていたんですが、お会いしたら頭の中はすごくギラギラと、メラメラと炎が燃えている音がするみたいな感じで、まだやりたいことも書きたいものもあるんだろうなって感じました。情熱を持ち続けることって、きっと満足しないこと。『満足できない病』に見えるかもしれないですけれど、きっとそんな気がしています」
日常のちょっとした変化や発見を楽しむ。
様々な経験を経て、自分との付き合いも長くなってきたマチュア世代。「情熱」をどこかに置き忘れてきたように感じている人も多いのでは? 「美」に感動する気持ちや「情熱」を忘れずに人生を楽しむために何が必要なのか、小泉さんに聞いてみました。
「ぼーっと空を眺めたり、素敵な景色に感動したり、最近そういう時間をあまり持てていない気がします。携帯で写真を撮ったりしているからですかね? きれいだなで終わっちゃって、自分の感覚に向きあう時間がとれていないのかもしれません。幼い頃や若い頃の記憶はたくさん残っていて、いつも私を助けてくれるんですけど、最近は、本当の感動をしていないような気がします。今の私が大切にできるもの、夢中になれるものを見つけたいなって、私もそんなふうに感じています」
クウネル世代の悩みに共感しつつ、最後に小泉さんらしいポジティブなアドバイス。
「あえて携帯電話を忘れてみたり、どこに行くかを決めないで出かけてみたり、時々そうこうことをしてみたらいいんじゃないかな。グーグルマップで複数のルートが出てきたら、行きと帰りで変えてみるとか。
以前満島ひかりさんが舞台を観にきてくれた時、若い俳優の子が『何かアドバイスはありますか?』って聞いたら『毎日劇場に来る道を変えてみたらいいよ』って言っていたんです。それをきっと、その子以上に私が実践しています(笑)。
ドラマティックな変化を期待するのではなく、小さなことでも変化や発見を受け入れる環境を作る。そんなちょっとしたことから、人生は楽しくなるんじゃないのかな」
小泉今日子さんが出演する映画『海の沈黙』は11/22より全国公開中。また発売中のクウネル1月号には「買い物」をテーマにしたインタビュー記事も掲載されていますので、あわせてチェックしてみてください。
『海の沈黙』
数々の名作を手がけてきた脚本家・倉本聰氏が長年にわたり構想をあたためてきた贋作事件をめぐる物語。『海の沈黙 公式メモリアルブック』(マガジンハウス刊)も好評発売中。
本木雅弘
小泉今日子 清水美砂 仲村トオル 菅野恵 / 石坂浩二
萩原聖人 村田雄浩 佐野史郎 田中健 三船美佳 津嘉山正種
中井貴一
原作・脚本:倉本聰
監督:若松節朗
製作:曵地克之
プロデューサー:佐藤龍春 製作会社:インナップ
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD
小泉今日子
1966年神奈川県生まれ。オーディション番組をきっかけに1982年デビュー。歌手として数々のヒット曲をリリースしながら俳優としても多くの映画やドラマに出演。2015年に制作会社「明後日」を設立。現在は舞台制作やプロデュース業にも力を入れる。
撮影/中村力也、スタイリング/藤谷のりこ、ヘア&メイク/磯島メグミ、取材・文/吾妻枝里子