写真家・中川正子さんの大切な3冊。「ファンタジーと自分の世界がトンネルでつながったような感覚」になった本

誰しも人生の傍に本の存在があるのではないでしょうか。

時に新しい扉を開き、背中を押し、心を癒してくれることも。写真家の中川正子さんに〝かけがえのない本〟を聞いてみました。

ビジュアルも含めて本の魅力を知るきっかけに。

小学生の頃は内気で図書館が好きだったという写真家の中川正子さん。
「読み聞かせの会に参加するのも楽しみで、円形劇場のようなステージで低い声の女性が読んでくれる演出もミステリアスで、物語に浸る楽しさを知りました」

そんな子ども時代に「初めて母にねだって買ってもらった」一冊が、『はてしない物語』。布張りの装丁も特別感があり、宝物を手に入れたように感じたそう。

9歳のときに読んだ『はてしない物語』 ミヒャエル・エンデ 著 上田真而子、佐藤真理子 訳

古書店で1冊の本に目を奪われた少年バスチアンが、本の中の不思議な世界に入り込み、数々の冒険を繰り広げるエンデの傑作ファンタジー。岩波書店

「物語の中でこれと同じ赤い本を主人公が見つける場面が出てくるのですが、ファンタジーと自分の世界がトンネルでつながったような感覚で、鳥肌が立ったのを覚えています。文字もグリーンとレッドの2色刷りで、視覚的な仕掛けも含めて物語の世界観にどっぷり浸りました」

料理をクリエイティブと捉えた視点にハッとする。

写真家のアシスタント時代、桐島かれんさんの表紙に惹かれてふと手に取ったのが『聡明な女は料理がうまい』

25歳の頃に読んだ『聡明な女は料理がうまい』 桐島洋子 著

1976年初版の人気料理エッセイ。すぐれた女はすぐれた料理人である__痛快な語り口で、台所づくりから合理的な料理、世界の味のレシピなども紹介。文春文庫

ひとり暮らしを始め、料理もしないと、と思ってはいたものの、金銭的にも時間的にも料理を〝面倒なもの〟という立ち位置に追いやっていた時期でした。でも、料理はクリエイティブな行為であり、自由で面白い行為である、というメッセージがこの本全体に貫かれていたんです。料理は女の仕事とされていた時代に殴り込みをかけるような、桐島洋子さん独特のきっぱり言い切る文体と、女性として強く生きていく意思に溢れていてかっこいい! この本に触発され、基礎もスキルもないのにボルシチを作ったりして」

小さな美しさにフォーカスする大切さを再認識。

3冊目は、出産後、岡山へ移住し、仕事にも復帰して時間に追われていた時期に読んだ詩集『世界はうつくしいと』

40歳の頃に読んだ『世界はうつくしいと』 長田 弘 著

「窓のある物語」「机のまえの時間」「なくてはならないもの」など27のポエムを収録。誰もが感じる日々の感興が、深くゆるやかな言葉で綴られる。みすず書房

「いわゆるわかりやすい美しさではなく、日々の中に落ちている小さな美しいものを長田弘さんが一つひとつすくい上げて言葉にしているんです。あまりにも自分に余裕がなくて、こういう光が見えてないことに気づかされ、感覚を取り戻したいと思いました。今も光を見失っているな、と感じたら、長田さん的な美しさを見つけるまで、ひたすら歩き続ける〝リハビリ散歩〟をしているんですよ」

PROFILE

中川正子/なかがわ・まさこ

自然な表情をとらえたポートレートなどを得意とする写真家。読書好きで知られ、写真集、写真絵本、エッセイなども手がける。近著に『みずのした』(くも3)。10月に新刊も発売予定。

『クウネル』2024年11月号掲載 写真/加藤新作、 編集・文/今井恵、矢沢美香

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