コスチュームアーティスト・ひびのこづえさん、発想の源となった運命の本『世界大博物図鑑』と『星の王子さま』

ふとしたきっかけで読んだ本が、その後の生き方に大きな影響を与えていたり、転機になったり。コスチューム・アーティスト、ひびのこづえさんが運命の出合いをした本とは?

PROFILE

ひびのこづえ

演劇、ダンス、テレビ、映画、広告など多彩な分野でコスチュームを制作。近年はダンサーや作曲家とダンス・パフォーマンスを主宰。

いつみても触発される宝石箱のようです

散歩がてらに立ち寄った本屋で偶然出会った一冊。分厚くてずしりと重い『世界大博物図鑑』にひびのこづえさんはたちまち魅了されます。1990年の初版時で定価1万6000円。即購入には踏み切れないまま本屋に通っては眺め、ようやく手に入れたのは1年が過ぎた頃でした。

「リアルに描かれた絵がとにかくきれいなんです。私自身イラストから衣装の創作に移行した時期でもあったので、こんなのが作れたらいいな、と」

90年代、情報誌『とらばーゆ』の表紙を担当し、生物をモチーフにしたオブジェ風の服や独創的な帽子でコスチューム・アーティストとして飛躍を遂げたときも「発想の源には、荒俣さんのこの図鑑がありました」

『世界大博物図鑑』 1[蟲類]荒俣 宏

荒俣宏氏が蒐集した貴重な博物画で構成された傑作図鑑。「蟲類」「魚類」「両生・爬虫類」などひびのさんは5巻を購入。現在は普及版として全7巻(¥5,720~¥6,820)が復刊。(平凡社)

そもそも子供の頃から手に取るのは、絵や装丁がきれいな本ばかり。

「映画を観るのと同じで、本を開くと自分の中に映像が出てくるんですね。絵や装丁はより映像に入りやすくしてくれる助けとなるもの。だから、文字だけより自分の好きな色使いや絵が入った本を選んできたと思います」

そんなひびのさん目線で選ばれた『不思議の国のアリス』『星の王子さま』も、ずっと大切にしている本たち。両作品ともに舞台衣装の依頼が舞い込んだときは不思議な縁を感じて、じっくり読み返したと言います。

『星の王子さま』サン=テグジュペリ訳/内藤 濯

誰もが知る名作だけに新たなイラストや装丁を施した新版が続々登場するも、色のつけ方やレイアウトにこだわるひびのさんは、あくまでもオリジナル愛を貫く。(岩波書店)

『THE NURSERY “ALICE”』LEWIS CARROLL

『不思議の国のアリス』を最初に意識したのは、80年代に海外で見つけたこの本から。「アリスの服はブルーではなくてゴールドっぽい色。舞台衣装ではオリジナルをリスペクトしました」

 

『虫とけものと家族たち』ジェラルド・ダレル訳/池澤夏樹

英国のナチュラリストである著者が、幼少期に過ごした島での生活を綴った本。「カメと人間のやりとり、ヤモリとカマキリのユニークな関係、かささぎの悪戯。とびきり可愛い生物たちと少年の純粋な心にグッときます。同時に、人間は驕ってはいけないと思い知らされますね」(中央公論新社)

「最近は衣装ありきのパフォーマンスにこだわっているので、いかに身体が動きやすくておもしろい形に見えるかを考えることが多くなりました。今、『世界大博物図鑑』を見返してみても、造形といい、構造といい、つくづく生物ってすごいと思います。まるで宝石を見ているよう」出会いから30年余り、宝石箱のような本が創作に刺激を与え続けます。

エポック的な作品から現在進行形の作品までを網羅した『ひびのこづえ 不思議の森に棲む服』

4,500円 ※問い合わせは熊本市現代美術館まで

『ku:nel』2023年1月号掲載
写真/目黒智子、取材・文/河合映子、編集/黒澤弥生

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『クウネル』No.118掲載

私の人生を変えた本

  • 発売日 : 2022年11月18日
  • 価格 : 980円(税込) (税込)

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