【わたしのこれから】全力を傾けるのが、「生き方のクセ」。 でもそろそろ考え時が来たようです
その独自のオーラと魅力で映画や舞台を引き締める片桐はいりさん。
今月還暦を迎え、自分の年齢や体とどう向き合っているのでしょうか。
片桐はいり/かたぎりはいり
1963年東京生まれ。小劇団からキャリアをスタート。映画好きとして知られ、映画館のもぎりとして働いた経験を書いた『もぎりよ今夜も有難う』(幻冬舎文庫)の 著書がある。地元・大森の映画館では時間のあるとき、今ももぎりをしている。
けがをして気づいた生き方のクセ
『かもめ食堂』『あまちゃん』『富士ファミリー』......この人が出てくる作品ならば、きっと見て損はないと思わせる。唯一無二の存在感で多くのファンを魅了する片桐はいりさん。
19歳で小劇場の俳優としてデビューして去年で40周年。この1月に還暦という節目を迎えて、ますます活躍の場を広げている......のですが、この取材の前にけがをして脚を痛め、少しの間車いすに乗らざるを得なかったそう。幸いすぐに回復できたものの、年齢を考える出来事ではあったようです。
「みなさんもそうでしょうけれど、50歳を過ぎたあたりから、体調とか、いろいろなことが次から次へと起こってきますよね。30代なかばから暴れまくって芝居をしていた頃の、つけが回ってきたのかなと思うんです」
ひょうひょうと、軽やかな芸風の俳優さんかと思いきや、実は「なんでも120%の力でやらなくちゃと思うタイプ。主演でも脇役でも、ほんのちょっとしたコメントを出すのでも全力を傾けてしまって。それが私の生き方のクセなんだと思います」
「しょうがないとあきらめる」
そのまじめさ、力を抜かない姿勢が見る側を引き付けてきたことも事実です。ただ、いつも全力以上で走っていたら、疲れて当たり前。まして還暦という区切りの年齢でもあります。片桐はいりさんも最近は、ほどほどにする、力を抜くということも考えるようになったのだとか。
「力が入っていると体が自由に動かないってこと、世の中には多いと思うんです。できないことは人に任せるとか、しょうがないとあきらめる。
そんなふうに思うと気が楽になりますよ。けがをして、周りに助けられて、迷惑をかけるけど、これが今の私なんだって」
嗅覚を鍛える
片桐さんが大切に思うのは、向こうからやってくる人生の波がいい波か、いやな波なのかを見極める勘。仕事にせよ、人間関係にせよ、この波を受け入れたら心地よくいられるかどうか、それを嗅ぎ分ける嗅覚が大切だと。
「その勘を鍛えておけばいいんじゃないでしょうか。勘が外れることはあるけれど、上がったり下がったりして、リカバリーしていけばいい」
人生後半の道筋を考えるときのヒントが詰まった言葉です。
『クウネル』2023年3月号掲載
取材・文 船山直子
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『クウネル』No.119掲載
パリ・東京 おしゃれスナップ138
- 発売日 : 2023年1月20日
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