コロナ禍を通して、世の中が大きく変わりつつある昨今。かつての仕組みや方法が通用しなくなったとき、私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。
ライター・編集者の石川理恵さんが30代〜70代の道なき道を探る人たちに、仕事や住まい、家族について話を聞いたインタビュー集『時代の変わり目を、やわらかく生きる』から、マチュア世代3人のインタビューの一部をご紹介。それぞれの考え方から、これからの生き方のヒントが見つかります。
3回目は自宅で英語教室を開く村上康子さん、グラフィックデザイナーの村上誠さんのご夫婦。義父、2人の息子と里子の3世代6人で暮らしています。
これからの時代の生き方
vol.1 「tottori カルマ」店主、丸山伊太朗さんの横並びの働き方
vol.2 50代、未経験から台湾で働くー日本語教師・阿部恵子さん
■相乗効果が生まれるから、家族はおもしろい
村上さん夫婦は結婚と同時に誠さんの両親と同居をはじめて、2世帯4人家族になった。やがて長男が生まれて5人家族になり、母の他界、二男の誕生、里子の迎え入れを経て、現在は3世代6人家族で暮らしている。
「私はずっとこの家の社会保障担当だったんですよ」と笑うのは妻の康子さん。家族というチームをよりよく運営するために、康子さんが会社勤めに出て、自営業の誠さんが兼業で主夫をしていた時期が長かったという。体制を固定せず、その都度、ふたりでたくさん話をし、お互いの得意不得意をカバーし合いながら、役割分担や身の振り方を決めてきた。
長男が中学生、二男が小学生になって子育てが一段落した頃、養育里親になりたいと最初に望んだのは誠さんだった。
「養育里親(以下里親)」は、病気、虐待、経済的理由などさまざまな事情で実の親と暮らせない子どもを家庭で預かり、養育を担う制度。戸籍上の親子関係を結ぶ「特別養子縁組」とは異なり、親権は実親にある。実親の元に帰れるまで、もしくは自立するまで(原則18歳)の間、家庭に迎え入れるのが里親の役割だ。康子さんも、不妊治療をしていた頃から里親のことは知っていたが、誠さんに相談されても「自分には無理」と答えていた。
「里親って、神さまみたいな人しかできないと思っていたんです。その子の人生を引き受ける責任重大なことを、私なんかができるわけないと。夫にはそうはっきりと伝えていました。でも、その頃に同じ千葉県で虐待の事件があって、テレビのニュースを観ながら夫が涙を流している姿に心を打たれて。そこまでの気持ちがあるのならば、私は夫のために里親になろうと、考えが変わりました」
これから先も、壁にぶち当たったらその都度、みんなで考えればいいと誠さんは言う。
「お互いに余裕がない時には、夫婦ゲンカをすることもありますよ。それでも、意見を交わすほうがいい。交わしたあとにどうやって折り合いをつけて、建設的に進んでいくか。違う人間同士が一緒にいるからこそ、化学反応や相乗効果が得られる。子育ても働き方も家族のあり方も、ぶつかりながら自分たちで見つけてきた道を歩いていると思います」
石川理恵/いしかわりえ
ライター・編集者。1970年東京都生まれ。雑誌や書籍でインテリア、子育て、家庭菜園などライフスタイルにまつわる記事、インタビューを手がける。著書に『10年着るための衣類ケアブック』『身軽に 暮らす』(技術評論社)、『自分に還る 50代の暮らしと仕事』(PHP研究所)、共著に『家事の呪縛をとく ノート』(主婦の友社)などがある。http://hiyocomame.jp
※本記事は『時代の変わり目を、やわらかく生きる』からの抜粋です。
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写真/松村隆史 取材・文/石川理恵 再構成/赤木真弓