コロナ禍を通して、世の中が大きく変わりつつある昨今。かつての仕組みや方法が通用しなくなったとき、私たちはどのように生きていけばいいのでしょうか。
ライター・編集者の石川理恵さんが30代〜70代の道なき道を探る人たちに、仕事や住まい、家族について話を聞いたインタビュー集『時代の変わり目を、やわらかく生きる』から、マチュア世代3人のインタビューの一部をご紹介。それぞれの考え方から、これからの生き方のヒントが見つかります。
2回目は、長野県飯田市で夫婦で30年以上、自然食品や環境雑貨の店「てくてく」を営み、子育てと介護を終えた50代に未経験のなか、台湾で一人暮らしをしながら日本語教師をはじめた阿部恵子さんです。
これからの時代の生き方
■経験を積むことは、未来を開くこと
探しはじめてから決定までの期間は約半年。そこから2ヵ月ほどで慌ただしく準備を進め、56歳にしてはじめての海外生活がスタートしたのだった。
家族と離れてのひとり暮らしは「自由に時間が使えるし、自分の心配だけしていればいいので、気持ち的にはとてもラク」と笑う。阿部さんが台湾に渡ってから、思いのほか夫の暮らしにも大きな変化があった。
「夫はもともと店をはじめる前、農家になりたかったんです。私がいなくなって好きなことができる状態になったら、借りていた家を引き払い、古い一軒家と畑を買って、ニワトリと猫と犬を飼って、農的な暮らしにシフトしてしまいました。いずれはその農園をゲストハウス的に開いて台湾の人を呼びたいとか、夢想しているみたいです」
人生後半にきて、夫婦共に20代の頃の憧れの暮らしや初心のようなものに向き合っている。そんな思い切った行動がこれまでの経験と結びつき、また新たな夢にもつながっているようだ。阿部さん自身、台湾に行く前は「店の仕事はやりきった!」との思いで海を越えたが、いざ台湾暮らしを経験してみたら、「日本のオーガニックなものを台湾に紹介したいし、台湾のいいものを日本に紹介したい」と、ついつい考えているという。
資格を取ったあと、自分が持っている条件の延長線上では、それを生かす方法が見つからなかった。どうすれば、自分の望む経験が積めるのか。ピンポイントの可能性をめがけてホームを飛び出してみたら、ずいぶんと見通しがよくなった。
「今思えば、私のなかに無意識にあたためていたものがあったのかもしれません。それをやるなら今しかない、っていうタイミングをつかまえられたことが、よかったのかも」
石川理恵/いしかわりえ
ライター・編集者。1970年東京都生まれ。雑誌や書籍でインテリア、子育て、家庭菜園などライフスタイルにまつわる記事、インタビューを手がける。著書に『10年着るための衣類ケアブック』『身軽に 暮らす』(技術評論社)、『自分に還る 50代の暮らしと仕事』(PHP研究所)、共著に『家事の呪縛をとく ノート』(主婦の友社)などがある。http://hiyocomame.jp
※本記事は『時代の変わり目を、やわらかく生きる』からの抜粋です。
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「これからの世の中により必要な考え方ってなんだろう?」
この本ではやわらかく生きる人々に着目。 ある人は「シェアすることで場を作り」、 ある人は「事務職で独立」を、 ある人は「稼げない仕事を続ける」ことで資本主義経済と距離を置く。9人のインタビューを通して、いま求められるあたらしい軽やかさとはなにかを考える1冊。
取材・文/石川理恵 再構成/赤木真弓