結婚、子育て、起業、離婚、そして老後の暮らしを見据えた55歳の決断。ライフステージの変化に合わせて、7軒もの家を住み替えてきた<クウネル・サロン>プレミアムメンバーの井手しのぶさん。
鎌倉の山の上に建てた理想の平家に住み替えて約5年、60歳を迎えた井手さんの“今の暮らし”を綴った連載も最終回。
今回は、無理せず軽やかに生きるための「人付き合い」について伺いました。
人付き合いをシンプルにしたら、ストレスもなくなった。
引っ越しを機に不要なものを手放し、ミニマムで心地よい生活に移行した前回のお話に続き、年齢を重ねるごとに人付き合いもシンプルになってきたという井手さん。60歳を迎えた今、人付き合いで気をつかったり無理したりする必要はないと言います。
「私くらいの歳になると、そんなに友達もできないのよ。基本人見知りで一人が好き。近くにウクレレとか習えるようなコミュニティセンターがあるんだけど、そういうところは苦手なの。ご近所付き合いも得意じゃない。
今はまわりにほぼ他の家がないし、少ないご近所さんとは自然な距離感でお互い頼りあえる関係性なのですごく楽。年齢とともにどんどん人見知りになってきたので、無理して友達を作ろうとも思わない。友達の取捨選択も進みました。
考え方が違ってきちゃったなと感じたら、無理に合わせようとは思いません。例えばママ友って子供がいて成り立つ関係だけど、子供が巣立ったら必要ないかもしれない。話が合わなくてもそれは当然。だったら無理をして続ける必要もない。
今付き合いがあるのは、会うのはたまにだけど一緒にいて心地よい人だけ。お互いにあまり干渉しないのが丁度いい。ベタベタしたいような人は無視しちゃう。この歳になったら必要ない人間関係はやめていいと思います。やめるとすごく楽になる。
前は一人で寂しいでしょ?なんていう人もいたけれど、最近は誰もそんなこと言わなくなりました(笑)。温泉でもどこでも一人で行っちゃうし、そのほうが気をつかわないし楽なの。気が合う人とは一緒に出かけることもあるけれど、本当にひと握り。年齢と共に、人付き合いもどんどんシンプルになりました。
社員を抱えてバリバリ仕事をしていた頃や自宅で小さなカフェを経営していた頃は、もちろん仕事上気をつかうこともありました。人に迷惑をかけないで自由に生きていくにはどうしたらいいだろうって、55歳の時に色々整理して今の家に引っ越して……今は気をつかうような仕事は受けていないので、人付き合いのストレスはまるっきりない。仕事以外のお付き合いも、合わないと思ったら無理はしません。
付かず離れず、ひとり息子とはちょうどいい距離感。
20年ほど前に離婚してから女手ひとつで育ててきた息子さんも現在35歳。彼が23歳の時、当時住んでいた鵠沼の家を賃貸に出し、「もう住むところはないよ」となかば強制的に独立させたそう。
「独身で近くに住んでいる息子とは、ラインでバカなことを話したり、たまに家にご飯を食べに来たり、会うのは1ヶ月に1回くらいかな。こないだはお寿司をおごってもらいました。
ちょっと庭のあの木切ってよ。とか、そういう時に来てもらったり、風邪ひいたって連絡が来たら食べるものを持って行ったり、お互い必要な時に連絡を取り合う関係。そんな感じだからあまり依存していないんですよね」
60歳、女ひとり。仕事も人付き合いも家族との関係も、自分の尺度で自分らしく。
まさに理想の暮らしを体現しているように見える井手しのぶさん。その根底には仕事の成功と挫折、子育てや離婚、7軒の家の住み替えなど、これまでの経験の上に成り立つ、ぶれない軸があるように感じました。
「私は心配性だから、なんでも早いうちに準備しておきたいんです。下の世代にアドバイスするならば、老後の計画は経済力と体力があるうちに。そして無理はしないこと。いらないもの、合わないことを手放すと、すごく楽になりますよ」
取材・文/吾妻枝里子