作家、料理家として活動されている樋口直哉さん。おいしい料理を合理的な観点から発想し送り出す樋口さんは、日々こだわりのキッチンツールを使っています。それらを選ぶ条件は、上質である事。ただ最新の高級ツールを使えば良いというわけではないそうです。そんな「本当に良い」道具を選ぶための見極め方や、愛用しているものを教えていただきました。
定番道具は上質に。プライス関係なく本当に役に立つものを。
自分の手をスケッチすると、いつも見ているはずなのに、こんな形をしていたのか、と驚く。身近すぎる故に見えていない。台所道具にも似たような感じがある。いい道具は存在を主張せず、意識せずとも作業を助けてくれるもの。
そういう意味ではゴムベラなどは典型だ。昔のゴムベラは加熱用途には使えなかったが、素材がシリコン製に変わったことで、用途が広がった。ボウルの中身からフライパンの内側についたソースまで、きれいに拭いとれる。どこにでも売っているけれど、質のいいものはなかなかない。柄と持ち手が一体であり、先端部が薄く、しなやかなものがいい。
数本のゴム製ヘラ
ステンレスとガラスのボウル
毎日使う道具だからこそ、上質なものを選びたい。僕にとって上質とは必ずしも高価なものではなく、役に立ち、細かな気遣いがされているものである。新しいものが必ずしもいいとも限らない。おひつは昔ながらの道具だが、やはり優れている。炊きあがったご飯の余分な水分を吸収してくれるからだ。新しいものと古いもの。それらが混ざり合って今という暮らしが生まれる。
ご飯鍋&おひつ
2枚以上のバット
ひぐちなおや
服部栄養専門学校卒業後、フランス料理店や料理教室などで修業する。2005年『さよなら、アメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家としてもデビュー。近著に『新しい料理の教科書』、『最高のおにぎりの作り方』などがある。本誌連載中の「考える料理」が人気。
●ツールに関する記事、他にもいろいろ。
◎【福田春美さん愛用のキッチンツール/前編】目に見えるものだからこそシンプルに。
◎【福田春美さん愛用キッチンツール/後編】長持ちし、手間が掛かるからこそ愛おしいキッチンの骨董品たち
◎料理研究家・植松良枝さんのこだわりキッチン。選び抜いた道具を生かす収納術とは?
『ku:nel』2021年5月号掲載
写真 伊藤徹也 / 取材・文 原 千香子