温熱環境や家事動線を考え、暮らしのストレスを少なくー暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子さん【住まいと暮らしvol.64】

部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。前回の安斎明子さんのバトンを受けてご登場いただくのは、「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子さんです。

伊藤さんの暮らしのルール

1)暮らしかたは誰のモノサシにも関係なく、100%自己満足でいい
2)暮らしの中の「しなければならない」を疑って、ときに手放す
3)大切なのは、家族みんながご機嫌なこと

「暮らしかた冒険家」という肩書き通り、北海道札幌市で生まれ、神奈川県で育ち、東京・熊本・札幌・岡崎と引っ越ししながら、新しい暮らしかたを模索している伊藤さん。

「再婚がきっかけで、夫の仕事場のある愛知県へ。10年ほど前から魅力的なまちづくりをされている岡崎市に移住しました。妻、母が家事をしなければいけない、家はきれいでなければならない、食事の後はすぐ食器を洗わなければならないなど、暮らしの中の違和感を疑い、心地よい暮らしかたを作っていきたいと思っています」

 

美しいものは次の使い手が必ずいると考える伊藤さん。少しずつ名作家具を集めているそう。「孫などがいつか、豊かな暮らしかたの一部を引き継いでくれたらいいなと、何十年か先を妄想するのもいいものです」

家づくりについての編著を持つ伊藤さん。今の住まいは断熱等級6の高断熱住宅だそう。

「温熱環境、家事動線、家事家電によって、暮らしの中のストレスが少なく穏やかなところが気に入っています。家づくりは3周目ですが、住まいの役割は、暮らしの中のポジティブをつくるより、ネガティブを減らすことだと考えるようになりました。どんなにすばらしい住まいも、住み慣れると普通になってしまうものです。でも、“幸せ”は日々のアクティビティや突発的な出来事から感じやすいと気がつきました」

吉村和美さんの作品。「器はいろいろと試しましたが、今はレパートリーを減らし、同じ作家さんのものを買い増すのが好き。吉村さんの器は、年々増えていく色を楽しんでいます」

家族がご機嫌でいるために、望まれていることだけをするように心がけているのだとか。

「家族が望んでいないことを、勝手に一生懸命やらない。それでもやりたい場合は、勝手にやっている自己満足だと認識するようにしています」

鰹節、梅干し、酵素シロップなどが入った保存瓶が並ぶキッチン。「大きな食洗機やオーブンとのコントラストが、わが家らしいなと思います」

キッチンの一角。「角田淳さんの陶器の美しい照明、棕櫚の箒、桐ダンスをリメイクした食器棚、夫のコーヒーマシン。私たちの価値観の上下左右への振り幅の広さがよくわかる場所かもしれません」

ある日の食事。「食材の素晴らしさに頼り、焼いて調味料をパラっとかけるだけ。この日は隣町の敬愛する『徳八農園』さんの野菜と、夫が作ったフムスとサラダが前菜です」

庭でいろいろなハーブや野菜を育てているそう。「タイム、ミント、フェンネル、フォーズマリー、コブみかん、マイクロトマト、茗荷。焼くだけ、塩を振るだけがベースの料理に、変化が加わります」

 

ご主人はコロナ禍、雑誌の特集で好きな店のレシピが公開されたのをきっかけに、キッチンによく立つようになったそう。

友人や子どもたちの作品、家族写真などを飾る壁。「作品の入れ替え途中の様子。今の気分は、下條ユリさんの『戦争なんてクソ喰らえ』です」

 

スマートホームは必需品。「子どもの習い事や、お迎えのリマインドをしてくれたり、スマート電球Hueと連動させ、自分たちの寝る時間の1時間前から照明が徐々に暗くなるなど、タイムキーパーとしてなくてはならない生活の相棒です」

 

「事務所スペースも含んでいるのに91㎡と小さな家なので、お風呂、トイレ、洗面所は一体にすることで省スペース。子育てをしていると、おむつを変えたりするのにもシームレスで広々していて、使いやすい間取りだと感じます」

 

洗濯はドラム式洗濯機で乾燥までかけることがほとんど。家族の洗濯物を混ぜずに、それぞれの洗濯バスケットから、それぞれが洗濯するスタイルに。「私も夫もアメリカでホームステイしたことがあり、みんなの分を誰か1人がまとめて洗濯しなくてもいい、という価値観を持っていたから行き着いた形です」

 

ウォークスルークローゼットには、洗濯機が設置され、洗う、干す、しまうが一箇所で完結。「階段の手すりは、物干しコーナーとしても活躍。来客時に慌てて片付けるのは言うまでもありません」

寝室は、ベッドが窓と壁にぴったりついたレイアウトに。「断熱等級6、トリプルガラスの樹脂サッシを採用したことで、窓際も壁際も暑さと寒さを感じることがありません。照明は柳宗理さんの一番大きなAKARIによって、おおらかな空間になっています」

住宅は性能面にもこだわり、断熱等級6、耐震等級3に。「エネルギーをどれくらい使う家にするのか自覚することは、これからとても大切。あとは暮らしの中の寒さ・暑さを我慢するために(無自覚に)忍耐力を使うのではなく、社会に使った方が未来のためになるんじゃないかな、と考えます」

 

夏の冷房は14畳エアコン1台、冬の暖房はこれに加えて床暖房を朝晩に30分程度で、家中が快適に。「高断熱住宅については、編著『あたらしい家づくりの教科書』をぜひ」

家の庭にDIYで作ったというコーヒースタンド「Coffee.TO.______」。「『本当はコーヒーで生きていきたかった』と何かと口にしていた、コーヒーへの情熱が暑苦しい夫へのプレゼントのようなもの(笑)。人生は一度きり。好きなことをやれば良いと思います」

 

profile

伊藤菜衣子/いとうさいこ

暮らしかた冒険家、クリエイティブディレクター、「Coffee.TO.______」共同代表。『未来の“ふつう”を今つくる』をモットーに、暮らしにまつわる違和感をアップデートし、言語化を試みる。インターネットとリアルを泥臭く奔走し未来の暮らしを手繰り寄せていく様を、坂本龍一氏は「君たちの暮らしはアートだ」と評した。編集・共著に『あたらしい家づくりの教科書』『これからリノベーション 断熱・気密編』(新建新聞社)など。活動やアウトプットは多岐に渡るが、すべては「誰もが心豊かに暮らせる社会」をつくることに集約される。

https://bouken.life

 

伊藤さんがバトンを渡すのは、カラープランナーの小林明子さん。「暮らしの中に色を取り入れるという豊かさを教えてくれた、カラープランナーというお仕事を皆さんに知ってもらいたい。そしてSNSから垣間見られる、鎌倉での暮らしも気になります」と伊藤さん。小林さんの暮らしは、10月中旬に公開予定です。どうぞお楽しみに。

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