パリとフランスにまつわる情報サイトTRICOLOR PARISの主宰・荻野雅代さんと桜井道子さんおふたりが、毎月交替でフランスから日々の暮らしをご紹介。第14回目は、桜井さんがフランス・パリに訪れた新しいカルチャーについてご紹介します。
パリの新しいカフェカルチャーとは?
今考えるとちょっと笑ってしまうのですが、思い返してみれば、留学時代やこちらに住み始めたばかりのころは、カフェに座り、飲み物を注文して、最後に支払いを済ませて店を出る、という行為をスマートにできるようになりたいとずっと思っていました。カフェはただの飲食店ではなく、ひとことでは表せないようなフランスを象徴する存在だと感じていて、だからこそ、さりげなくカフェ通いを楽しめる人に憧れていたのだと思います。
同じカフェと言っても、芸術家たちに愛された老舗カフェから、地元っ子たちが通う、なんの変哲もないカフェまでさまざま。でも、歩道にまではみ出したテラス席、日よけのシェード、小さな丸テーブル、籐椅子、ビロードの長椅子、タイルの床、錫製の年季の入ったカウンターなど、昔ながらのカフェらしさを感じさせるものはだいたい共通していて、それがフランスのカフェのアイデンティティになっています。
そんなふうにすっかり見慣れたカフェ風景ですが、パリではこのところちょっとした変化が起こっています。
それは、ファサードをたくさんの造花で飾るカフェをよく見かけるようになったこと。
色とりどりの桜や薔薇、藤の花がいつも咲き乱れていて、遠目では本物と見間違いそうになるのですが、「いや、今は桜の季節じゃない」と我に返る、なんてことがたびたびあります。
もちろん近くで見れば造花だとわかるし、なんとなくチープな感じがする、インスタ映えを狙っているだけでは?と思われても仕方ないくらいなのですが、ベージュの石造りの建物が立ち並ぶ、落ち着いた色調のパリの街の一角が、このデコレーションのおかげでぐんと明るくなるのは確か。
コロナ禍でカフェも閉まり、暗く沈んだパリの街の記憶がまだ新しいだけに、華やかでカラフルなカフェの登場は意外とパリジャンたちにも受け入れられているような気がします。
文/桜井道子