料理家・高山なおみさんが自身のウェブサイト「ふくう食堂」に綴る日記を収録した、人気エッセイシリーズ『帰ってきた 日々ごはん』。2002年に『日々ごはん①』の日記がスタートし、神戸に拠点を移した4年目の夏から冬にかけての日記を綴った最新刊『帰ってきた 日々ごはん12』で24冊目。今年で日記を書きはじめて20年を迎えました。
静岡県に暮らす90歳の母親との別れ、生きることと死ぬことについて綴った本書から、3回に渡って日記の一部をご紹介。3回目の今回は、2019年年末の日記から。心の動きを感じたまま、心地よいリズムで書き留めた高山さんの文章が、鮮やかに情景を写し出します。
高山なおみ/たかやまなおみ
958 年静岡県生まれ。レストランのシェフを経て、料理家になる。文章も料理と同じくからだの実感に裏打ちされ、多くの人の共感を生む。2016年、東京・吉祥寺から、神戸へ住まいを移し、ひとり暮らしをはじめる。本を読み、自然にふれ、人とつながり、より深くものごとと向き合いながら、創作活動を続ける。http://www.fukuu.com/
著書に日記エッセイ『日々ごはん』シリーズ、料理本『野菜だより』、『おかずとご飯の本』(以上アノニマ・スタジオ)など、絵本に『みどりのあらし』(岩崎書店、絵・中野真典)、『ふたごのかがみ ピカルとヒカラ』(あかね書房、絵・つよしゆうこ)、『おにぎりをつくる』『みそしるをつくる』(ブロンズ新社、写真・長野陽一)など多数。 公式ホームページアドレス高山なおみさんの日々ごはん
■2019年12月28日(土)の日記より
まだ眠れる、まだ眠れると思いながら、ずっと寝ていた。
ゆらゆらゆらゆら。
夢をみては覚め、また夢をみてはうつらうつら。
ゆうべは七時半にはベッドに入っていたから、十二時間以上眠ったことになる。
ああ、ほんとによく寝たなあと思いながら、九時半に一階に下りたら、新しい机が窓辺で光っていた。
レースのカーテンから、黄色い光が透けている。
そこでぽっかりと四つん這いになっている机は、なんだか幸せそう。
おとついは日食で、その夜は話が尽きず、中野さんとずいぶんお喋りしながら呑んでいた。
その机を囲んで、二時くらいまで。
だからきのうの朝はまだお酒が残っていて、でも、えいっと起きたら、お天気雨が降っていた。
太陽が強烈で、家々の屋根の濡れたところに反射し、あちこちで光っていた。
海の鏡もいつもより大きく、眩しさも強烈で、台所から窓を見ると一面金色だった。
朝、大きな虹も出ていたと、今日子ちゃんのメールで知った。
日食のせいなのかどうなのか分からないけれど、太陽が新しくなったみたいな日だった。
私も、二十五日に六十一歳になったのだけど、新しい一年がこれからはじまるような気持ち。
去年の暮れに、母からもらった還暦のお祝いの手紙が引き出しから出てきた。
「創作活動に励んでいるあなたは、母さんの誇りです。離れていても、いつもそばにいるようです。いつまでも美しく優しくね」と書いてあった。
母の祭壇に供える。
夕暮れの空は、茜紫。
今年は本当に、いろいろなことがあったけれど、静かに、静かに、暮れようとしている。
夜ごはんは、雑炊(しゃぶしゃぶ鍋の残りの汁に、白菜と油揚げを加え、味噌を溶いた。冷やご飯と溶き卵、ねぎ、梅干し)、蓮根のきんぴら(ごま油、塩)。
※本記事は『帰ってきた 日々ごはん12』(アノニマ・スタジオ刊)からの抜粋です。
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帰ってきた 日々ごはん12
料理家、文筆家の高山なおみさんの日記エッセイ『帰ってきた 日々ごはん』シリーズの第12 巻。神戸でのひとり暮らし4年目の2019年7月~12月の日記を収録。
アノニマ・スタジオ
プロフィール写真/枦木功 再構成/赤木真弓