山下りか/やましたりか
雑誌『オリーブ』のスタイリストで活躍。その後、長期旅行気分でN.Y.へ。アメリカで家族を得て1998年帰国。竪琴の一種ライアー奏者、手仕事作家として活動。
Short Essay:
大切なものは身の回りに
若い頃は沢山の素敵な大人に憧れて、その暮らしぶりや歳の重ね方をお手本に生きていたいと思っていました。ところが、その憧れを全て手に入れずとも、大切なものは身の回りにあったと気づくきっかけが ありました。
それは、二年前に階段108段ほどの小さな山の上に建つ古い家を自分で手直しして新しい暮らしを始めたことでした。その古い家は、長年の雨漏りで台所の床が一部抜けていて、基礎から手直しする必要がありました。
作業を始めた頃は一体どうなるのだろうと不安でした。床を剥がして土間を見たとき、今はもう改装している祖父母の家を思い出したのです。その家はもともと土間があり、わたしのお気に入りの場所だったのです。
それを参考にしてこの家では土間を残し、床のかわりにレンガを敷こうと決めました。
作業を手伝ってくれる友人たちに恵まれ、 600個以上のレンガを少しづつ手で持って階段を上り、土間ができたら壁塗りもしました。
そうして皆で考えながら手をかけ時間をかけていくうちに、ただの古い家がかけがえのない大切な我が家に変わっていったのです。一生忘れられない思い出にもなりました。
昔憧れた暮らしとはかなり異なるかもしれませんが、最も大切なものは身の回りに集まっていることに気づけたのです。今はこの場所に来られたことを感謝して日々を満喫しています。
文/山下りか、写真/久保田千晴