【マチュア世代へ…おやすみ前のミニエッセイ】音楽家、日本酒蔵元12代目・かの香織さん「幸せの入り口」

かの香織 はさまや酒造 ミニエッセイ 日本酒 幸せの入り口

Short Essay:
「幸せの入り口」

生まれ育った自邸の庭に43年の長い眠りの末のこの初夏に、小さな日本酒のクラフト醸造所として皆さんに支えられながら念願の再興をすることになりました。

宮城県沖地震で酒蔵を取り壊したあの季節は緑が鬱蒼とした季節。暗い記憶だったはずなのに日本酒造りを経験することで自然と共にしながら心が緩やかに修復されていきました。

予定になかった人生。恐る恐る開けた新しい扉は一縷の光。興味、目に留まったこと、気になること。これは吉兆。幸せの入り口。 厳寒の酒蔵。研ぎ澄まされた別世界。

故郷の土は涙する程ありがたい感覚でした。大地に手をあて感謝し空や水、風。発酵し星の数ほど生まれる命。私は無心に同化していきました。

仏教思想にアラヤ識というのがあるそうですが、これが酒造りにも近いものがあり、美しい言葉、浄化、感情、言霊で醸しを満たしていきます。

日常にも役に立ちました。雨だとします。雨が続いて嫌ですね、という人があまりに多い。ところが日本酒の世界にいると不思議です。適度な雨なら恵み、浄化の雨。ありがたいという感謝しか湧いてきません。

日常でも不平、不満がなくなる。 見える空は何にも形容できない絶景の空。喜びは1日に何回あるだろうと数えるようになります。美しい人生の実践を私が創る音や日本酒で伝えられたらいいなと…。

文/かの香織 写真/久保田千晴

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