小山登美夫/こやまとみお
1996年小山登美夫ギャラリー開廊。初期の奈良美智、村上隆を展示。日本のアート界を牽引するギャラリスト。著書に『現代アートビジネス』など。
Short Essay :
「生きた時間をアートにする」
最近、不思議なのは、面白いとかいいなという作品が、自分よりもずっと年上のアーティストの作品であることが多い。
ソウルのアートの見本市でもそうだった。この中で一番カッコいいなあと思った絵が、 80歳のキム・チョンハクという韓国ではすごく有名なアーティストの作品だった。
その若々しい色使いや構図は若い人が描いたんだろうと思い込んでいた私には衝撃だった。とても自由。近年、美術の世界では歴史からの再発見というブームが続いていて、アーティストが若い頃に制作した作品の掘り起こしがあるが、キムさんの作品は年を取ってからの方が面白い。
昔、富岡鉄斎のことを小林秀雄が80歳からの絵がいい、と書いていたのを思いだす。
そのあとの衝撃は86歳の伊藤慶二。この人は陶の世界の人なのだが全く知らず、美術館のコレクションを観て、最近作を中心に個展を開催した。
そして、アメリカのキャサリン・ブラッドフォード。今年80歳のペインターだ。政治家の妻から、一転。40歳で美術学校を卒業し、絵の世界に飛び込み、70歳ぐらいで注目され、美術館で個展を開催。
彼女の生き方自体がアートの存在の意味をちょっと伝えてくれる。 時間を経て自由になる。さらに意欲的になる。その生きた時間を作品にできる、そのことが魅力につながるのだろうか?
文/小山登美夫 写真/久保田千晴