心の支えとなっているもの、暮らしで頼りにしているもの。「愛するもの」についてのストーリーを語っていただきました。
麻生要一郎/あそうよういちろう
料理家
家庭的な味わいのケータリング弁当が好評。雑誌へのレシピ提供、執筆などを経て、2020年には初の著書『僕の献立 本日もお疲れ様でした』を出版。第二弾・『僕のいたわり飯』も(ともに光文社)。
撮影現場やイベント会場などで、 話題を集めているケータリング弁当があります。手間を惜しまず、心のこもった料理は、食べた人のお腹の底からいたわるような不思議な力が。
それを作っているのが麻生要一郎さん。いくつかの職を経て、料理の道へとたどり着きました。料理の礎をつくったのは、やはり母。
「暮らしをとても大事にしている人でした。たとえば、春には玄関にミモザ を飾ったり、四季で絵をかけ替えたり。もちろん食卓も旬の味覚で満たされていて、日々の暮らしで季節感を楽しんでいたんですね」
麻生さんが20歳くらいのころ、水戸の実家の建て替えが行われました。
「新しいキッチンにふさわしい食器を」という母のおともで、新宿のインテリアショップ『ザ・コンランショップ』へ。
そこで買ったのが、グリーンのマーブルが美しいお皿です。ぽってり厚みのある陶器は、柔らかな風合い。「どこのもの」ともいえな い不思議な佇まいは、「独自の世界観をもつ」母の目を引きました。スープボウル、平皿、小皿など、一そろいをセットで購入。以来、家族の食卓を支えてきました。
「シンプル」にはない味わいが食卓で映える
母が亡くなり、家じまいのとき。たくさんのものの整理をしているなかで、 「手放したくないのはこれ」と持ち帰ったのがこの洋皿たちです。パスタ、カレー、サラダなど洋食はもちろん、和や中華など、どんな料理もなんでもござれ。
白いシンプルな器が「盛りつけやすい」と重宝される風潮ですが、麻生さんは一蹴します。
「確かに『懐は狭い』器なんです。マーブル模様は独特で、ちょっとトゥーマッチな感もある。だけど、家で食るごはんだし、それでいいんです」
1990年代、素敵な空気に満ちた新宿のインテリアショップで食器を買った、「あのとき」のウキウキ感。それも含めての、大切な宝物なのです。
『クウネル』2022年7月号掲載
写真/有賀傑、取材・文/鈴木麻子