〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーのKayoさんこと重盛佳世さん。38歳で会社を辞め、直感に導かれるままイギリス留学を決めました。その後、英会話の本が大ヒットという人生の大転換をアラフォーで経験しました。現在は執筆の傍ら、海外から訪れる外国人ビジネスマンが滞在するところでコンシェルジュの仕事をしています。ここでは様々な出会いがあり、今回はイギリスの舞台演出家との素敵なエピソードをご紹介します。
舞台演出家との素敵なエピソード
イギリスから帰国後、せっかく覚えた英語を忘れないためと、社会とのつながりを保つために、週に3日、法人向け高級アパートメントで外国人滞在客のコンシェルジュのアルバイトをはじめました。
当初は執筆の息抜き気分で気軽にやっていたものの、日本に居てこれだけ海外の人と触れ合え、人に尽くすことのできる仕事が、自分にとって天職に思えてきました。この仕事は様々な出会いがあります。今回はその中でもほっこりしたエピソードをご紹介します。
この仕事をはじめて最初の頃、入居者の中にちょっと気になる男性がいました。彼は平日休日問わず、10時半くらいに現れ、ロビーから見える富士山をしばらく眺めて出ていきます。いつもイヤホンをしていて、〈構わないでくれオーラ 〉 を出していたので、私も挨拶だけで、無理に話しかけることはしませんでした。
ある朝、その日はとても天気が良く、富士山がきれいに見えていました。私は彼がエレベーターから出てきたのを見計らい、「今朝は富士山がいちだんと美しいですよ!」と、思い切って声を掛けてみたのです。
すると彼は富士山を見て、「本当だね、素敵な朝だ~♪」とイギリス人がよく使うlovelyを連発して私のところにやって来ました。私は、「おおっ、やっと心を開いてくれた!それもイギリス人だ!」と心の中でガッツポーズをして会話を続けました。
「イギリスの方ですか?」
「あぁ、イングランド出身さ!」
「イングランドですか!私も滞在経験があります。」
「どこ?」
「カンタベリーです。」
「カンタベリーか、いいところだね。僕はリバプール出身で……」
と、そこから話は盛り上がり、翌日からは、彼は少し早めにやってきて、おしゃべりを楽しんでから仕事に出かけるようになったのです。彼の職業は演劇プロデューサー。
来月公演予定の舞台演出をしているとのことで、日本の有名な俳優たちに稽古をつけていたのでした。
その後も朝の楽しいお喋りタイムは続き、いよいよ舞台開演の日がやって来ました。
初日の朝、彼はちょっと緊張気味。私はいつものように元気にいってらっしゃい!と送り出しました。そして翌日、彼がいつものようにフロントにやって来たので、お声がけをしました。
「初日の公演はいかがでしたか?」
「あぁ、大成功だよ!今朝の富士山のように、僕も心も晴れているよ!」と。
それは良かった!と私も一緒に喜びました。すると突然、「Kayoは演劇に興味はある?」と聞いてきたのです。
「もちろん、ありますよ。ロンドンの劇場にも何度も足を運びました!」と答えると、だったら、自分の芝居に招待すると言ってくれたのです。私はすぐさま、それは申し訳ないから自分でチケットを買うと言ったところ、彼はほほ笑みながら、こう言ってくれたのです。
「実は、周りのスタッフたちは、家族や友人を招待しているのに、私は日本に友人がいないから寂しく思っていました。私の日本での特別な友人として、ぜひ僕の芝居を見に来てほしい!」と。
彼のこの紳士的な言い回しにグッときてしまい、私はその思いに甘えて、後日、彼の招待席(VIP席)で芝居を観させていただきました。なんとも贅沢な体験です。
その芝居の公演は1ケ月以上続くものの、演出を無事終えた彼は、次の舞台のためにロンドンに戻らなければなりませんでした。
彼の退去日。私は舞台のお礼として、手紙と2つの贈り物を用意しました。ロビーから見える富士山が好きだった彼に、ひとつは富士山が刺繍されたブックマーカー(台本に挟んで使ってほしい)、もうひとつは富士山のピンバッチです。
彼はこれらをとても喜んでくれて、すぐにピンバッジを自分のジャケットにつけ、「これを見るたびに、ここでのステキな思い出が浮かぶよ。ロンドンに戻ったら、日本の友人からもらったと自慢できる!」と言って立ち去ったのでした。
それから1年後、帽子に富士山のピンバッジをつけた男性がやって来て、笑顔でこう言ったのです。
「Kayo、また来たよ!」
【Kayo’s message】
一期一会
Once-in-a-lifetime meeting.
人との出会は不思議なもので、「一期一会」はわたしの好きな言葉のひとつです。日本で生まれた言葉なので、残念ながらぴったりな英訳はありませんが、しいて言えば、「一生に一度きり」というこの表現が使われます。わたしの場合、相手との出会いに感謝を込めて <I am happy to have met you!(あなたに出会えてよかった!)> とシンプルな表現をよく使います。