84歳のレジェンド演出家が描く、日本へのオマージュ。新作舞台『金夢島』とは【演劇ジャーナリスト・伊達なつめさん】
現代の舞台芸術表現に大きな影響を与えたフランス人演出家、アリアーヌ・ムヌーシュキンの新作テーマは再び日本に……。太陽劇団によるその最新作『金夢島』とは?
PROFILE
伊達なつめ/だてなつめ
演劇ジャーナリスト。「青森に来たついでに閉館が決まったという棟方志功記念館へ。展示と庭園の素晴らしさに心打たれ、切なさで後ろ髪引かれる想いに」。
84歳のレジェンドが描く、 日本へのオマージュ
太陽劇団を率いるフランスのアリアーヌ・ムヌーシュキンは、ピーター・ブルックと並んで、世界の現代舞台芸術界にもっとも大きな影響を与えたとされるレジェンド演出家です。パリ郊外ヴァンセーヌの森にある旧弾薬庫を活動拠点に、多国籍のキャストやクリエイターと集団創作を行い、シェイクスピアから難民問題まで、さまざまな題材を、細やかな手づくりかつ壮大なスケールで描いてきました。
その演劇観の根底には、彼女が20代のころに訪れたインドや日本で出会ったアジアの芸能文化に対する憧憬があるといい、2001年の初来日公演『堤防の上の鼓手』では、黒衣が俳優を操るという文楽の人形遣いのスタイルを取り入れた演出で、日本文化への愛と造詣の深さを示してみせました。
そんなムヌーシュキンは、現在84歳。最新作『金夢島』は、佐渡を彷彿させる架空の島を舞台にした、彼女の日本へのオマージュそのものといっていいスペクタクルです。実は、元々は劇団員総出で佐渡で新作のための準備を行う予定が、新型コロナにより全員での来日が不可となり、作品の設定を、重病の女性が熱にうなされ見る夢としての、妄想の日本にしたのだといいます。実際に舞台には、自分が日本にいると勘違いしている病床の高齢フランス女性が登場。彼女の目に映る不思議な日本の情景とともに、香港やアフガニスタン、ロシアなど、多様な言語が飛び交う〝東方の異文化社会〟の実相が織り込まれています。ヨーロッパの巨匠が憧れ、憂う極東の島国の姿を、地元民が観ないわけにはいきません。
【注目Ⅰ】不穏で独特な世界観の作家・演出家の新作
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【注目Ⅱ】ジャンルを超越する狂言師、初のオペラ演出に挑戦
毎回、話題の演出家が指名され大きな話題となる全国共同制作オペラ。今回『こうもり』に挑むのは、初オペラ演出となる野村萬斎。狂言師meetsオペレッタで笑いのツボを分かち合えそう。
文/伊達なつめ
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