コラムニストの中野 翠さんがおすすめ映画を語る本連載。今回は、イタリア発、浮気性の夫と翻弄される家族をちょっとユーモラスに描く佳作です。
中野翠/なかのみどり
コラムニスト。
映画や本、落語などの評論のほか、社会・事件に関する批評を手がける。著書に「まさかの日々」(毎日新聞出版刊)など。
『靴ひものロンド』
一九八〇年代初頭、イタリアのナ ポリを背景にした、ある一家の物語『靴ひものロンド』 。
主人公のアルドはラジオ番組のそこそこ人気者の中年男。妻子あり。妻のヴァンダ、娘のアンナ、息子のサンドロの四人家族。
アルドは言うまでもな く(?)浮気者。職場がローマにあるのをいいことに、同僚の女の人と不倫 関係になっている。
それを察知した妻・ヴァンダは納得できず、ローマの職場に押しかけ、説得をこころみるのだが、アルドは聞く耳を持たず。子ども二人は父親を憎む ことなく慕っている。その事実もヴァンダにとっては納得いかないという か、シャクにさわるというか。
思い詰めたヴァンダは窓からの飛び 降り自殺をはかるのだが……という激 しい展開。それをシリアスにではなく、いささかユーモラスなタッチで描 いているのが、ありがたい。
そんな大事件もありながらも家族の絆はホソボソながらにもつながってい て、いまやアルドもヴァンダも老夫婦ということに……。
家族の絆のありようは、まったくもって、さまざま。この映画では、成長 した息子の「靴ひもの結び方」に、父と息子の「ほとんど無意識の絆」が象徴されている。
と、まあ、そんな家族映画なのだけれど、実のところ、私はストーリーよりも衣装や雑貨のほうに注目。クラシ ックな物も今どきの物も、おおいに目を愉しませてくれる。
犬好きの私だが、家族の飼っている黒猫にも注目。 名前が、イタリア語で「破滅」というのが面白い。
靴ひものロンド
監督/ダニエーレ・ルケッティ ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、 全国順次公開中
https://kutsuhimonorondo.jp/
※上映時期などは変更の可能性があります。各映画館へお問い合わせください。
文・イラスト/中野 翠 再編集/久保田千晴