素材そのものの味わいを引き出す、洗練された家庭料理に多くのファンを持つ料理家のサルボ恭子さん。
作り置きしておくことで日々の食卓を豊かにしてくれる、ストック調味料やおそうざいのレシピをまとめた新刊『毎日おいしいびん詰め』が好評発売中です。
レシピ紹介に続き、書籍に込めた思いや、サルボさんにとっての家庭料理について伺ったインタビューの最終回をお届けします。
サルボ恭子
老舗旅館の長女として生まれ、料理家の叔母に師事したのち渡仏。パリのグランメゾンで研鑽を積み帰国、料理家として雑誌やTVなどで幅広く活躍中。現在は日本でフランス語教室を主宰する夫と自身の両親の四人暮らし。『ストウブマスターブック』(学研プラス)、『おもてなしは一品豪華主義でいい』(誠文堂新光社)、『フランス共働き家庭の2品献立』(立東舎)など著書多数。Instagram @kyokosalbot
先々の自分を助けるため、準備は早めに段取りよく
――書籍のサブタイトルの「日々を助ける」という言葉が印象的ですが、サルボさんが「日々を助ける」ためにしていることはありますか?
サルボ恭子さん(以下、サルボ):朝食や昼食を作りながら、同時進行で次の食事の準備をすることが多いです。今は子供たちが独立して夫と2人の食事になりましたが、夕食の準備を事前に進めておけば、そのぶん夫とゆっくり食事を楽しめますよね。
子供たちが小さい頃は、アトリエを持たず自宅で仕事をしていました。時間になると撮影隊や料理教室の生徒さんがいらっしゃるし、仕事が押すこともあるので、朝ごはんを作りながら夜の仕込みをして焼くだけ、煮るだけにしておく。子供たちが帰ってきたらおやつを出して、夕ご飯はこれを焼いて…と、常に頭の中で段取りを組んでいました。
――お料理以外でも、段取りを意識されていますか?
サルボ:料理は段取り命なので、普段の家事も「あれをやりながらこれをやって」と、自然に段取りを考えているかもしれません。
数年前から両親と二世帯同居を始めました。高齢の両親が元気なうちに、早めに動いておきたいなという気持ちはあったのですが、父も母も住み慣れた土地を離れる気がなく、なかなか実現に至りませんでした。
そんな中、上京中に母が体調を崩してしまったことがあり、「今しかない」と説得し、同居に向けて行動しました。いくら計画を立てても人のことは思い通りにいきませんが、同居については随分前から考えていたので、ちょうどよいタイミングで実現できたのだと思います。
好きなこと、心地よいことを知っていれば、やるべきことが見えてくる
――その判断力、行動力はどこからくるのでしょう。
サルボ:夫はフランス人で考えが明確。何事も「君はどう思う?」と聞いてくるので、はっきりとした自分の考えがないと会話が成り立たない。昔は夫との会話の中で、曖昧な自分に気付かされることもありました。
彼との会話を通し、ひとつひとつの選択に対して、自分が心地よいかどうか、それは今やるべきことかどうか、考えるトレーニングを自然に積んできたのかもしれません。50歳をすぎた今は、自分が好きなこと、心地よいことが明確で、あまり迷うことはありません。
私たち日本人は100点を目指すような教育を受けてきましたが、もし努力して50点しかとれなくても、努力した自分を褒めてあげてもいいと思うんです。少しばかり誇らしく思い、許してあげてもいいのではないでしょうか。
大人になってからは「足を知る」と言いますか、自分自身を理解していれば、必要ないことを無理してやる必要はないし、考えなくていいことは考えない。
暮らしも料理も「自分が心地よいかどうか」という尺度で楽しめばいいと思います。心地よい時間を重ねるため、時には先々の自分のために準備をしておくことも必要です。「日々を助ける」という言葉には、そんな思いも込めました。
毎日おいしいびん詰め
冷蔵庫を開けて、自家製の調味料とおそうざいのびん詰めがあると嬉しい。これさえあれば、味の要が出来ているので食事作りがぐんと楽に。時間と手間をかけないびん詰め作りを。
『毎日おいしいびん詰め』(文化出版局)
撮影/宮濱祐美子
聞き手/吾妻枝里子