人気漫画家・ひうらさとるさんが影響を受けた、小泉今日子さん著『人生らしいね』
漫画家・ひうらさとるさんが、細かい葛藤もあった日々に共感した一冊とは?第一線で活躍している注目のあの人が、長い人生のなかで指針にしてきた本、運命の出合いをした本について伺いました。
PROFILE
ひうらさとる
1984年『なかよし』でデビュー。代表作『ホタルノヒカリ』。『西園寺さんは家事をしない』、『聖ラブサバイバーズ』が連載中。VoicyでMCも。
時代と向き合って物語を紡いでいく支えに
「図書館の中の本を読み尽くしたいと願い、本を読みながら私ならこう展開するのにと思う子でした。横溝正史や江戸川乱歩に夢中で」
物語を紡ぐ側の視点も既に持って本と戯れた少女時代ののち、10代で漫画誌デビュー。その後80年代後半、ひうらさんが飛躍を目指し東京へ移った頃手に取ったのが、小泉今日子さん著の『人生らしいね』でした。小泉さんのオフショットとモノローグの文章で綴られている一冊。
「同時代を生きる小泉さんは、肩肘張らないで自分らしく軽やかで輝いていました。細かい葛藤もあった日々に共感できる世界を見つけて私は、これからずっと女の子の気持ちを描いていこう!と思いを強くしたんです。あとで開くと時代の空気が満ちて、自作への影響も大きかったと気づきました」
今と対峙する軽やかさは、山本文緒さんの小説にも強く感じるそう。
「物腰は軽やかでいて、時代の写し取り方が鋭い。山本さんの現役感に感動したのが『ばにらさま』です。私もベテランにならず現役でいなくては!と」
力強く歩むための共感と変化を運んでくれた2冊は、ずっと身近に置いています。一方、「物語の世界の中で遠くに連れ去られたいし、没頭したい」とひうらさんが、揺さぶられたのは?
「『百年の孤独』です。時や空間を旅する感じも伏線回収もすべて圧巻で壮大。読後の変化は?と聞かれてもわからないけど、読書の収穫は蓄積するから数十年後に再読して確認したいものです」
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『ku:nel』2023年1月号掲載
写真/石川奈都子、取材・文/原千香子