コロナ禍の中で注目を集めている「嗅覚トレーニング」をご存知でしょうか? 年を重ねると五感が鈍くなるとはよく耳にしますが、香りを意識的に嗅ぐ習慣を身につけることで、嗅覚は鍛えることができると言います。その効果やトレーニングの方法について、アロマテラピーショップ「生活の木」でお話を伺いました!
「食事がおいしくない」と感じたら 嗅覚低下のサイン!?
普段、私たちはさまざまなにおいに囲まれて生活していますが、においに対して自分がどれほど敏感なのか、意識することはほとんどないのではないでしょうか? 人の家のにおいは気になっても、自分の家のにおいには気づかないように、同じ環境の中にいると鼻が慣れ、においに意識が向かなくなってしまうのだそう。
そのうえ、年齢を重ねると嗅覚も低下。自分では気づかないうちに、においがわからなくなることがあると言います。
「嗅覚は使っていないと嗅神経が衰え、感度が鈍くなると言われています。ここ数年はマスク生活が長引いていることもあり、外を歩いていても花の香りに気づかなかったり、雨の日のモヤモヤした湿気のにおいを感じなかったり。また、煙のにおいに気づかずトーストや鍋を焦がしてしまう、食べ物が腐っているのに気づかない、ガス漏れに気づかないなど、特に高齢になると健康や生活のリスクにつながるという研究が医療機関によっても進められています」
と教えてくれたのは、生活の木 マーケティング本部 ブランディングチーム 中村佳央さん。
「風邪や花粉で鼻がつまって、においを感じにくくなった経験はあるかと思いますが、嗅覚は味覚とも密接に関係していると言われ、料理の味付けが濃くなったり、食事をおいしく感じなくなったりすることもあるようです」(中村さん)
そんな中、最近注目されているのがアロマの香りを使った「嗅覚トレーニング」。ドイツやヨーロッパの医師らが提唱したことから広まったリハビリテーション法で、嗅覚刺激療法とも呼ばれ、嗅覚神経細胞の再生を促す効果が期待されていると言われています。
「加齢などによる嗅覚障害の対策として、特色の異なる4種の精油の香りを嗅ぐ方法が、日本でもいくつかのクリニックですすめられています」(中村さん)
朝晩2回約10秒×3カ月を目安に。
嗅覚トレーニングは、4タイプの香りを1種類10秒ずつ、順番に嗅いでいく、というとても簡単なもの。 嗅覚トレーニングのための精油はいろいろなアロマショップなどで販売されていますが、ここでは生活の木の「嗅覚トレーニングセット」を使ってやり方をご紹介します。
STEP1
まずは準備から。使う精油はユーカリ、クローブ、レモン、ラベンダーの4種類。
【ユーカリ・グロブルス】コアラが食べることで有名なユーカリの葉から抽出した精油。すっきりと清涼感のある香りが特徴。
【クローブ】チャイでおなじみ。日本ではチョウジと呼ばれ、古くから料理などに使われている。温かみのあるスパイシーな香り。
【レモン】精油は果皮を絞って得られたもの。リフレッシュの際にも使われることが多く、柑橘のみずみずしい香り。
【ラベンダー】精油は花から得られる。さわやかでフローラル感のある香り。ゆったりした時間を過ごしたいときにぴったりの精油。
STEP2
広口瓶の中にコットンを入れ、コットンに染み込ませるように精油を20滴垂らす。他の3種類も同じものを作って、フタをきっちり閉めておく。これで準備は完了!
STEP3
4種類の中からまず精油をひとつ選ぶ。順番は特に決まりはないので、好きな香りからスタートすればOK。
STEP4
瓶のフタを開け、鼻から3cmくらい離して香りをクンクンと10秒間嗅ぐ。深呼吸するのではなく、鼻の中に小さく香りを広げるイメージで行うのがポイント。同じようにして、他の3つの精油も10秒ずつ嗅いでいく。
これを朝晩2回、12週間続けるのが効果的だそう。
「いろいろなタイプの香りを嗅ぎ分けることがポイントで、樹木の香り、スパイスの香り、果実の香り、花の香りと、違いがわかりやすい香りを組み合わせています。大事なのは、ただ嗅ぐのではなく、何の香りなのかを意識しながら嗅ぐこと。慣れ親しんだ香りでも、『これがレモンのにおいだ』としっかり認識しながら嗅ぐことがトレーニングになります」(中村さん)
実際に試してみると、普段、こんなふうに集中して香りを嗅ぐことがないため、知っているつもりの香りにも新しい発見が!
生のレモンをカットしたときとはまた違うビターな奥深い香りを感じたり、スパイスでおなじみのクローブも料理に少し使う程度ではわからない、ほのかな甘さを感じたり。体調や気候の変化によるのか、日によって同じ香りでも感じ方が変わったりすることも。
「お客様に聞くと、『自分がにおいを感じにくくなっていることに気づかされた』という声が多いですね。私自身、最近はマスクをしていることが多いため、においを感じにくいと思うことがあったのですが、どこかでコーヒーを入れているにおいとか、大好きなベルガモットの香りも以前のようにクリアに感じとれるようになった気がします。また、嗅覚トレーニングをきっかけに、食べ物のにおいを意識的に嗅ぐようになりました」と中村さん。
神経性嗅覚障害患者を対象に行われた研究でも、バラ、ユーカリ、レモン、クローブの香りを朝晩2回、12週間にわたって嗅いだところ、嗅覚機能が改善したというデータが出ていると言います。
※参考文献:嗅覚のリハビリテーション 東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科 近藤健二
「精油は天然の香りであることに加え、揮発性が高く、香りがすぐ飛んでしまうので、いつまでも香りが残らないのも利点です。長い時間嗅いでいると香りの感じが弱くなったりするので、短い時間で繰り返したほうが効果的。歯磨きのついでに行うなど、時間を決めて習慣にすることが大切です」(中村さん)
身近にある香りでも嗅覚は鍛えられるそうなので、コーヒーの香ばしい香り、ハーブや花、果物のフレッシュな香りなど、身の回りにある心地よい香りを意識して嗅いでみるのもおすすめです。
●生活の木 「嗅覚トレーニングセット」(精油4点セット2,640円もあり)
https://onlineshop.treeoflife.co.jp/ec/pro/disp/1/082993410?sFlg=2
●嗅覚トレーニングの詳しいやり方はこちらの動画でチェックできます!
https://www.youtube.com/watch?v=Xz0QezJziY4
取材・文/矢沢美香