【目利きが選ぶフランス映画】死や喪失がテーマの作品、作家・井上荒野さんの3選
夏の終わりのアンニュイな時期。夜更かしして、フランス映画を観ませんか?フランス映画には、恋、おしゃれ、アート、濃密な人間関係…人生で大事なことが全部が詰まっている。目利き10人におすすめのフランス映画について聞きました。
今回は、死や喪失をテーマにした作品を作家・井上荒野さんがセレクト。死があるからこそ逆説的に生きることの美しさが伝わってくる大人の映画3本です。
どんな年代でも繰り返し見られる、名作だからこその力です
井上荒野さんがすすめてくれたのは、喪失、そして死ぬことと生きることについて考えさせられる作品です。フランスを代表する名優、ジャン゠ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァが老夫婦を演じた『愛、アムール』では妻の病と彼女を老々介護する夫の姿が、『まぼろし』ではバカンス先のビーチで突然夫が失踪し行方不明になってしまった妻の空漠たる内面が、『ぼくを葬る』では、若くして不治の病に侵された男性の最期の日々が、それぞれ描かれていきます。
「3本とも何かを失うことはどういうことなのかを考える映画です。フランス映画には死をテーマにした作品が多いと思います。ここに紹介する作品も喪失や死がメインテーマですが、死ぬことを通して愛とは何か、生きるってどういうことなのかを問いかけてくる映画だと思います」
3本に共通してある、死を迎える前にあった何気ない日々の暮らし、平穏な日常の風景。海辺の別荘で、簡単な夕食のテーブルを囲みながら交わした何気ない夫婦の会話。すこしドレスアップしてコンサートへ出かけた老夫婦がその余韻を静かに楽しむ様子。失われてしまうからこそ、そうしたことのかけがえのなさが際立って観る者の胸に迫ってきます。
「ずっと続くと思っていた日常がぶつっと途切れてしまうこと、誰にでも起こりうることですよね。生きているときには気にも留めなかった些細なことが失われてみるとこんなにも美しいことだったのか、と気づかされる。死を描くことで、生きていることのかけがえのなさが逆説的に伝わってくる。死の裏側には生の輝きがあるということだと思います」
若いときに観るのはもちろんいいけれど、年齢を重ねて改めて観直すと新たな発見が生まれるのも優れた映画の証拠。「あと10年して観直したらどんな気持ちになるか、それもちょっと楽しみです」
すすめてくれた人
井上荒野/いのうえあれの
作家。父で作家の井上光晴と瀬戸内寂聴の不倫関係を書いた『あちらにいる鬼』が映画化もされ、話題に。春陽堂書店より、連作小説『猛獣ども』を上梓。猫好き、料理好きでもある。
『クウネル』2024年9月号掲載 取材・文/船山直子、原 千香子
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『クウネル』NO.128掲載
フランス人の素敵なルール
- 発売日 : 2024年7月20日
- 価格 : 1000円 (税込)