年末年始はこれを観るべし。映画ライターが語り尽くす「気になる新作映画」の注目ポイント【後編】

年末年始は話題作が目白押し。クウネル世代のベテラン映画ライター二人が気になる新作を選んで縦横無尽に語り尽くす対談企画【後編】です!

写真>©2022 ARENAMEDIA PTY LTD, SCREENWEST (AUSTRALIA) LTD AND SCREEN AUSTRALIA

PROFILE

金子裕子/かねこゆうこ

3年前から韓国ドラマにハマっている映画ライター。『環魂』のイ・ジェウクと『恋慕』のロウンがお気に入り。ともに身長185㎝超えの長身イケメン。お正月映画は、『枯れ葉』がオススメ。

杉谷伸子/すぎやのぶこ

フランス映画好きの映画ライター。23年邦画ベスト1は『BAD LANDS バッド・ランズ』。ティモシー・シャラメがお目当てではないけど、『デューン 砂の惑星PART2』が楽しみ。

社会派から自伝まで。親子の絆を見つめる3作

杉谷伸子さん(以下敬称略)

親子の絆は普遍的なテーマのひとつ。祖母役のウーピー・ゴールドバーグが製作にも名を連ねる 『ティル』 は、母の愛の強さを改めて教えてくれる社会派ドラマ。2022年3月に成立した「エメット・ティル反リンチ法」の原点になった事件を描いてる。

金子

大都市シカゴ育ちの14歳の少年エメットが、人種差別の色濃いミシシッピー州で白人にリンチで殺される。この事件は、アフリカ系アメリカ人による公民権運動を前進させるきっかけとなったのよね。社会に立ち向かった母メイミーの毅然とした姿に感動。

杉谷

メイミーは空軍で唯一の黒人女性職員で、知性も意識も高い。演じるダニエル・デッドワイラーは、息子を亡くした絶望も差別への怒りも体現して出色。それにしても、メイミーがまとう衣装の数々が美しいよね。悲しみを表現するブラックドレスにあんなにバリエーションがあるとは。

金子

あの気品と威厳が漂う衣装は、白人に「舐められちゃいけない!」という鎧のようなものでは。

杉谷

なるほど!そういう意味合いもあったのね。

金子

終盤は涙が止まらなかった。正義を貫いて次のステップへと進むけれど、息子を失った事実は消えない。裁判後に帰郷した彼女の表情が、それを物語っている。

杉谷

ラストのスピーチには胸を打たれる。反リンチ法が成立するまでに67年もかかってるという事実には愕然とするけど。

最愛の息子を亡くした母の闘争の日々『ティル』

1955年8月、14歳の少年エメット・ティルがリンチによって殺害される。人種差別が当たり前だった時代に、正義を求めて母親が立ち上がる。/監督・脚本:シノニエ・チュクウ 出演:ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグほか 12月15日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開

© 2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

父を亡くした少年の喪失感を美しき二世俳優が体現

金子

『Winter boy』 はクリストフ・オノレ監督の自伝的ストーリー。父親の急死で心のバランスを失った17歳のリュカの再生を美しい映像で描きだしている。これぞフランス映画な感じ。

杉谷

母親役はジュリエット・ビノシュだしね。でも、注目はリュカを演じるポール・キルシェ。ビノシュもご出演の『トリコロール』三部作『トリコロール/赤の愛』(ʼ94)のイレーヌ・ジャコブの息子なの。そっくりだよね。

金子

300人の中からオーディションで選ばれたということはママのコネじゃなかったのね。

杉谷

サン・セバスティアン国際映画祭主演俳優賞を史上最年少で受賞してるのが売りよ。実際、思春期の苛立ちや性愛を体当たりで演じてる。オノレ監督は、ポールの脚がすごく好きだね。

金子

伸びやかな脚をカメラが舐めるように撮ってたね。フェティシズム?リュカのファッションも、すごくセンスがいい。特に編み込みのセーターの色合いとか、オシャレ!お兄ちゃんを演じたヴァンサン・ラコストも新鮮よ。彼は『アマンダと僕』(’18)で優しい叔父さん役だったけど、本作ではスタイリッシュ。

杉谷

お兄ちゃんのルームメイトの存在も効いていた。悩み多きリュカの人生の扉を開いてくれる。親身になってくれる人の大切さが胸に沁みる作品だわ。

フランス人監督の自伝的ストーリー『Winter boy』

17歳のリュカは父親の突然の死によって、心のバランスを失っていく。家族の心配をよそに、悲しみの深みにハマっていく彼は……。/監督・脚本:クリストフ・オノレ 出演:ポール・キルシェ、ヴァンサン・ラコスト、ジュリエット・ビノシュほか 12月8日よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

© 2022 L.F.P・Les Films Pelléas・France 2 Cinéma・Auvergne-Rhône-Alpes Cinéma

西オーストラリアの豊かな海を守り続ける母と娘の絆

金子

『ブルーバック あの海を見ていた』には心癒された。豊かな恵みをもたらすオーストラリアの美しい海を守ろうとする母娘の絆が、雄大なスケールで描かれてる。

杉谷

ミア・ワシコウスカが演じるのは海洋生物学者アビー。環境活動家だった母が脳卒中で倒れたという報を受け、西オーストラリアのロングボート・ベイに帰郷。自然保護に目覚めた少女時代を思い起こし、自身の原点を見つめ直していくのよね。ほんと、この海がきれい!海の景色はもちろん海中も。この感動は『グラン・ブルー』(’88)以来。

金子

ブルーバックとは、アビーが子どもの頃に海中で出会った巨大な魚。ウエスタン・ブルーグローパーという種類で、70年も生きるものもいるそうよ。

杉谷

ブルーバックとの友情がこの作品のもうひとつの軸になってる。同じ海でしか生きられないこの魚のためにも自然環境を守りつづける。それが彼女の使命なの。ブルーバックと一緒に泳ぐシーン、いいよね。

金子

感動!しかも、あれはCGじゃないの。驚異的に精巧な模型。それを実際に水中で動かしてミアと共演させている。彼女がブルーバックに触れる感覚まで伝わるようで臨場感があったわ。

杉谷

声高に環境保護を叫ぶのではなく、母娘の絆を通してメッセージを伝えてるのも素敵。素直に共感できるよね。

豊かな海へ注ぐ母と娘の深い愛『ブルーバック あの海を見ていた』

若き海洋学者アビーの少女時代と現在を交錯させて描く静かな感動作。自然保護へのメッセージに、オーストラリアの名優たちが勢ぞろい。/監督・脚本:ロバート・コノリー 出演:ミア・ワシコウスカ、ラダ・ミッチェル、エリック・バナほか 12月29日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開

©2022 ARENAMEDIA PTY LTD, SCREENWEST (AUSTRALIA) LTD AND SCREEN AUSTRALIA

現代社会を映し出す衝撃実話の映画化3作

杉谷

往々にして事実は小説よりドラマティック。『ラ・メゾン 小説家と娼婦』 は、エマ・ベッケルの自伝小説が原作。なんと彼女は、娼婦と欲望について書くために、素性を隠して2年間も高級娼館で娼婦として働いていたんですって。

金子

これが実体験だったなんて驚愕。正直、エマの気がしれなかったけど、私たちが知る由もない世界をのぞき見するようなスリルはあるよね。エマ役のアナ・ジラルドは美しい裸体を惜しげもなくさらす熱演よ。

杉谷

なにより驚愕なのは、アナがイポリット・ジラルドの娘ということよ!

金子

この事実だけで作品の評価が爆上がりよ。私たちだけ?

杉谷

クウネル世代はほとんどじゃない?イポリットは’90年前後のフランス映画に欠かせない存在。エリック・ロシャンの 『愛さずにいられない』 (’89)、パトリス・ルコントの 『イヴォンヌの香り』 (’94)など、色男ぶりがたまらなかったわ。そうか、アナのフェロモンは父親譲りかぁ。

金子

「女性の自由とセクシャリティの解放を扇動する」という衝撃作。この刺激、たまにはいいかも。

高級娼館潜入2年、女性作家の実体験『ラ・メゾン 小説家と娼婦』

2019年、フランスで出版と同時に賛否両論を巻き起こした衝撃のノンフィクション小説を映画化。娼婦となった女性作家が垣間見た“秘密の世界”とは?/監督・脚本:アニッサ・ボンヌフォン 出演:アナ・ジラルド、オーレ・アッティカ、ロッシ・デ・パルマほか 12月29日より新宿バルト9ほか全国公開

© RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES

若手実力派勢ぞろい。伝説の“ハガキ職人”青春記

杉谷

『笑いのカイブツ』 は伝説の“ハガキ職人”・ツチヤタカユキの青春記。笑いを追求するものの、人間関係不得意でどこにいっても才能をうまく発揮できないツチヤの苦悩を実力派・岡山天音が怪演。

金子

四六時中、笑いのネタだけを考えてバイトも続かない。そんなダメ男ツチヤの日々は救いがないほど鬱屈しているけど、要所要所で画面に映し出される大喜利が面白いの。例えば「Q. 男湯と女湯を隔てる壁を英語に訳せ」とかね。答えはぜひ劇場で。

杉谷

あの回答、サイコーだよね。大喜利の使い方のみならず、オープニングタイトルやエンディングに挿入する映像の使い方とか、滝本憲吾監督のセンスが尖ってて大好き。映像の質感もインディーズな香りがしてたまらんわ。

金子

脇も豪華。大阪時代の顔なじみ・ピンクに菅田将暉、ツチヤの才能を認める売れっ子芸人・西寺役の仲野太賀、そして女友だちに松本穂香。それぞれがいい味を出しているね。松本穂香は清純派イメージが強かったけど、本作では等身大の女子のリアルを感じさせてくれたわ。

杉谷

仲野が醸し出す西寺の爽やかな男気にときめいちゃったし。ツチヤの絶望への共感を今にも泣きそうな笑顔で魅せる菅田とか、若手実力派勢ぞろいに興奮よ。

金子

世代的には母親目線で、「こんな息子がいたら、どう育てたらいいの?」と、ずっとハラハラしていたけど、ラストの親子の会話でホッとしたわ。

笑いに取り憑かれた男の半生『笑いのカイブツ』

6年間、テレビの大喜利番組にネタを投稿するなど、ネタ作りに没頭したツチヤは作家見習いを経て、人気お笑い芸人の西寺に才能を認められるが……。/監督:滝本憲吾 出演:岡山天音、片岡礼子、松本穂香/菅田将暉、仲野太賀ほか ’24年1月5日よりテアトル新宿ほか全国公開

©2023「笑いのカイブツ」製作委員会

経営難の農場に華麗なキャバレーが!?

杉谷

『ショータイム!』は、3代続く農場を経営難で終わらせられないと、「キャバレー」を開いた酪農家の実話がベース。主人公ダヴィッドは、差し押さえまでの2か月のうちに、ダンサーや手品師などパフォーマーを集めて、ショーを完成させると決意するわけ。

金子

キャバレーというのは映画『ムーラン・ルージュ』(ʼ01)のようなイメージね。でも、農場にある納屋を改装してステージを設置したのどかな雰囲気がいいわ。

杉谷

農場にキャバレーなんて村人の反対に遭うかと思いきや、意外にみんなノリノリ。

金子

特におじさんたち。

杉谷

ダヴィッドの母親や元妻ら、女性陣も最初は素っ気ないけど、実は興味津々。何かにつけて首をツッコんでくるのが微笑ましいね。

金子

そもそもダヴィッドがキャバレーを開こうと思ったのは、失意のうちに観たパフォーマー、ボニーの芸術的なショーに感動したから。彼女のスカウトから始まるメンバー集めも面白いんだよね。

杉谷

素人の寄せ集めかと侮っていたら、その過程で披露されるパフォーマンスの数々も意外にハイグレード。ショーの製作過程で個性派揃いのキャラクターたちが繰り広げるせめぎ合いもコミカルで人情味たっぷりよ。

金子

綴られるエピソードは定石どおりだけど、なぜか胸アツ。セクシーなボニーの登場で、酪農生活を嫌って離婚したダヴィッドの嫁の心がザワつくのもすごくかわいかった。

杉谷

ハートフルな愛すべきコメディという意味で、これもフランス映画の王道のひとつね。

痛快フレンチ人情エンターテインメント『ショータイム!』

経営難で農場差し押さえの危機に直面した酪農家が起死回生を狙った型破りな再建計画。納屋をキャバレーに改装するというアイディアは奇跡を起こすか!?/監督・脚本:ジャン=ピエール・アメリス 出演:アルバン・イワノフ、サブリナ・ウアザニほか 12月1日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

© 2021- ESCAZAL FILMS- TFl STUDIO - APOLLO FILMS DISTRIBUTION - FRANCE 3INEMA AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA

『クウネル』1月号掲載 イラスト/長嶋五郎 

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『クウネル』No.124掲載

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  • 発売日 : 2023年11月20日
  • 価格 : 980円 (税込)

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